三杯目 煙の回送列車(前編)

日差しが強くなり始めた六月。

もうすでに熱い。炒られるコーヒー豆の気持ちがよくわかる。

そんな中酒屋でノンアルカクテルに使うジュースを買っていた。

あらかた買い付け郵送の手続きを済ませたがライチのジュースだけ手で

持っていくことにした。

熱い道をとぼとぼと戻りみつどきに戻りドアを開ける。


「ただいま戻りました~」


クーラーが涼しい。結婚したい。


「おかえり~大丈夫だった?」


店長がアイスコーヒーを出しながら心配してくれた。

店長に買い物を済ませたことを伝えると同時にドアが開く。


「いらっしゃ…なんだアンタか」


店長の呆れた声がする。

いったい誰だろう。ストローでアイスコーヒーを飲みながらドアのほうを見る。


「一応お客さんなんだからそういう対応しないでよ…文眠」


「ここでは店長って呼んでよ…」


えっなにこの関係性怖い怖い。


「紹介するね 私の友人の牧瀬 一駅先で煙草屋やってるの。」


なんだご友人か。すっと牧瀬さんのほうに向きなおし軽く挨拶をする。


「文眠 アイスコーヒー頂戴~」

「はいはい…笹原君コーヒー飲んだらお皿洗いと片付けよろしくね」


首を縦に振り、コーヒーを飲み干す。乾きが潤う。

急いでエプロンを締めカウンターに入る。

ふと牧瀬さんを見てみると、そばにド派手な色をした箱が置いてあった。

表面にはぐにゃぐにゃとした筆記体でディープスプリングと書いてある。


「不思議な銘柄ですね?」


気になったので質問した。すると牧瀬さんは怪しく笑いながら


「これ? 夢が見れるたばこだよ。吸ってみる?」


たばこは苦手なのでやんわり断っておいた。そもそも未成年。


「これねー高いのよね。話題性には優れてるから売れてほしいんだけど」


「確かに見かけないっすね。最近出たんですか?」


興味が湧いてきたのでもう一個質問

すると今度は寂しく


「うん、常連さんから入荷してほしいって言われてね。」


そうつぶやいた。

そうして時間は過ぎていき夜の営業を始める時間になった。

牧瀬さんはゆっくりと支度をして、出て行った。

その後、店長からお店の看板に電源を入れてくるように頼まれ外に出た

外は昼の時の快晴とは真逆の、曇天が広がっている。

コンセントをつなぎ明かりがついたことを確認する。すると、嗅いだことのない匂いがした。


嫌ではないんだけど、鼻をくすぐる甘ったるいような香りだった。

ふと店先を見てみると、牧瀬さんがタバコをたしなんでいた。どこか幸せそうで、少し哀愁があるような感じで。

牧瀬さんはこっちに気づき、タバコの火を消し携帯灰皿の中に押し込んだ。


「なんだバイト君かどしたの?」


「牧瀬さんこそどうしたんすか?」


夜営業の前に帰ったはず


「この天気見てたら一本吸いたくなっちゃってさ」


牧瀬さんはそう言いさわやかに笑った。

その瞬間、自分の頭の中で電流が走りすぎた。


「牧瀬さん、ちょっと一杯試作に付き合ってください」

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