終章 母のもう一つの顔
「今どこにいるかは探さなきゃダメなんだけどね。レイラっていう心臓外科医がいるの。その人は魔力のメスで――あら、どうしたの? 変な顔して」
急に魔王様が僕の顔を覗き込んできた。
変な顔をしてしまっていたらしい。
当然だ。これで平静でいられる方がおかしい。
「レイラって僕のお母さんの名前もレイラなんだけど……」
「あらまあ! そうなの? もしかしてあなたレイラちゃんとこの子なの!? そう言われれば確かに、目元とか輪郭とか面影がある気がするわね!?」
僕の頬に手を当てた魔王様は、顔をくっつけんばかりに近付けた。ミルメアがとても微妙な顔をしたのが目の端に映った。
「あ、でも別人かもしれないので――」
病院で働いてた話は聞いてたけど、お母さんがお医者さんだったとは一言も聞いてないし。
「お母さんの名前、レイラ=レイズモードじゃないの?」
合ってます。
それから、衝撃の事実を口にした。
「我が子に執刀したのを最後に一線から身を引いたって聞いてるわよ、今は何してるのかしらね?」
「……え?」
我が子、って、僕のこと?
僕は兄弟がいないし、隠し子がいるとかそういうのじゃなければ、執刀された我が子っていうのは僕のことだ。
僕が昔、心臓に疾患があった。そうじゃなかったら、まさかこの魔法が発動できない原因って、もしかして――
「それはフィルのお母様に手術をお願いすれば、また私は魔力を使えるようになるということか!?」
「可能性の話だけどね、高いと思うわ。ユリアのことだし、私からもお願いしてみるけど、でもさっき言った通り今は何してるか分からないから――」
何って、家でのんびり過ごしてると思う。でももしそういう機会があるんだったら、僕もお母さんに会いたいとも思う。これまで考えないようにしていたことだから、どんな反応をされるかとか、どんな説明をすればいいのかとか、いろいろ考えることはあったけど、そんな僕の思いはお構いなしにユリアさんが叫んだ。
「よかった――フィル! これでいつでも会えるようになるぞ!」
「だから会わせるわけないでしょうが!?」
ミルメアの爪がさらに食い込む。
だから痛いんだってば!
わざとやってるんじゃないのこの人!?
「この光景もなんだか懐かしい思いがするわね。私が久し振りにあの人の家に行った時もこんな感じだったわ」
「それってさっき言ってた修羅場の話だよね!? 僕は浮気なんかしてないから!」
その例を持ち出されてしまうと、僕はこの直後ミルメアに半殺しにされるストーリーになってしまう。
「それじゃあホントかどうか、検証してみましょうか。私も、自分の娘が二股掛けるような男に引っかかって欲しくないから」
全然本気でそう思ってない顔だった。
この人は遊び全部でこの状況を楽しんでいたと思う。
けれど僕はその遊びによってこの後の人生を決定付けられてしまうことになる。
魔王様が、空中を引っ掻くような仕草をした。
絹のヴェールが剥ぎ取られるようにして、何もない空間から大きな真っ白の石板が現れた。
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