四章 対・人造兵器
初撃が一番肝を冷やした。
旧世代の遺物なだけあって、展開される魔法陣の術式が相当古い。解読に時間がかかり、危うく発動を許すところだった。
それに慣れた二撃目以降は大した苦労もなく攻撃を捌いていく。石神兵は外部から注がれた魔力が尽きる限り動き続ける、と昔読んだ書物には書いてあった。だからこそ、今僕が『六感強化』で感知できているこの強大な魔力が切れるまで、僕はこの大広間で跳び回り続けるしかないと分かっていた。
ようやくその魔力量は一万と少しまで落ち込み始めたところだ。
状態は、レベル6。
そして今ちょうど次の一分が経ったことを知らせる音声が流れ始めた。
『対象ノ破壊ニ必要ナ強度ヲ調整――』
石神兵の口内から、人のものとも何のものとも分からない声が漏れる。とにかく、そういう風に作られているんだろう。
これを聞くのも六度目だ。今、レベル7に上がったと思う。
石神兵を動かしている術式は、余計な魔力を消費しないように標的の強さに応じて出力を調整する仕様になっている。それを分かっているから、僕はギリギリの動きで回避するようにして急な性能上昇を起こさないようにしている。
真上から押し潰すようなパンチをひらりと躱すと、地面がどんと縦に揺れた。
石神兵を動かしている魔法陣自体を破壊できれば一番いいんだけど、それは体の中心の核となる魔石に刻み込まれている。僕の攻撃では、それを剥き出しにするほどに外皮を削ることができない。
「やっぱりリムルに付いてきてもらった方が良かったかなあ」
また六つ程、同時に展開された魔法陣を繰絡・風切で破壊しながら呟く。石神兵の魔力量がまた少し下がった。
直後、僕は違和感に気付いた。
今の魔法陣はどれもよく似たものだった。ただ、僅かに術式の構造がずらされていた。つまり、解読の難易度に僅かばかりの差があった。
こいつ、僕を測ったな――
『――対象ノ破壊ニ必要ナ強度ヲ調整』
それが証拠に、一分と経たっていないのに例の音声が流れた。
刹那、両腕を広げた石神兵が三十――数にしてさっきの五倍の量の魔法陣を展開した。
さすがに、数が多い。
感覚で計算のために測っていたレベルは、もうあてにならなくなってしまった。
僕はざっと眺めた上で危険なものから順に破壊していく。
基本は千々に散らした繰絡・風切を操りながら、どうしても間に合いそうに無いものは手掌で操る繰絡ノ調で潰していく。けれど。
――ダメだ。間に合わない。
咄嗟に判断を下す。
僕は小指の鎖でブーツの踵に仕込んだストッパーを砕いた。
火炎放射のように、ごうと青い炎のような魔力が靴底から噴き出した。それを推進力に、僕は宙に舞い上がる。
三つほど残してしまった魔法陣から、熱光線が放射される。それは僕が立っていた地面一帯を焼き払った。間一髪。
『
これは、僕がミルメアに作ってもらった新しい装備だ。魔力伝導がうまくできない僕から強制的に魔力を吸い出し、推進力に変換する術式が組み込まれている。難点は、オンオフの制御ができないこと。
つまりこれは一度発動してしまえば、持ち主の魔力をすべて吸い取るまで止まらない。
『対象ノ破壊ニ必要ナ強度ヲ調整――』
「……ごめん、ちょっと考える時間が欲しいんだけど」
耳が無い相手に言ってもしょうがないことは分かってる。ちょっとした現実逃避だった。持久戦だと思っていたのが、僕の魔力が尽きるが早いか、それともこいつの魔力が尽きるのが早いかの短期決戦に変わったことは理解していた。
動きが止まったかと思えば、またさっきと同じように両手を広げ、またさっきと同じ掛け算で魔法陣が展開された。
「――嘘、でしょ」
思わず声が出る。
三十の、五倍。
百五十の術式がところ狭しと張り巡らされた。
「ああもうっ!」
なんでこう僕ばっかりつらい思いをしなきゃいけないんだ!
強烈な後遺症に悩まされるからできれば使わずに終わらせたかった。けれど間に合わなかったんだから仕方がない。
「――『
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