四章 単独行動
僕はリムルに掴まって目的地まで移動する間、戦況の説明を受けていた。
こちらの軍は、悪魔族とオークの混成軍だ。
もともとこのギルボア山岳地帯はヴァニーユ領とカタラーナ領のちょうど境に位置していて、両国の軍事拠点も近い。それが幸いして、急な襲撃にも両軍が出撃することで対応できていた。
そして、所属不明と聞いていたけれど、ある程度は目星がついているみたいだった。
「……人間?」
「はい。襲撃を受けた直後に確認された魔力はとても人のものではない反応だったのですが――今雪崩れ込んできている兵については十中八九人間で間違いありません」
「現場で起きた反乱、じゃないんだよね」
「そうではないと言い切ることはできませんが、可能性は非常に低いと思われます」
『現場』は、人間を完全に解放した場所と、数が足りず一部残っている場所がある。ここは後者だった。けれどこれまでの報告書を読んでいる限り関係性はそう悪くなく、むしろ他の現場と比べると良好なくらいだった。
「何が起きてるんだろう」
どこかから人間が一斉にいなくなったなんて話は聞いたことがない。つまり、軍を組成できる程に力を持って自由な人間の集団なんてこの魔界に存在しないはずだった。あるとすれば、僕の管理外の小国だ。もしかして、僕の方針に不満を持つ種族が連れてきた人間を兵に攻め入ってきた、とか――
「フィル様、この辺りです」
「ありがとう――『
地面に下り立つや否や、僕は感覚強化の魔法を発動した。ぼんやりと捉えていた魔力反応の大きさと場所がより鮮明になる。
「いる、ね」
二つの反応を感じた。隠蔽魔法が何かが掛かっているおかげで、僕くらいの鋭敏な感覚が無い限り分からないほどの微弱な反応だった。波長が僕に似ているから、キーンとカナで間違いないだろう。
この場所は、戦場からは少し離れていた。ただ、地面には多数の足跡がある。おそらく兵団が通過した跡だろう。二人は敵襲を受けたというよりは、敵襲を察知してここに潜んだのかもしれない。
僕はぽっかりと口を開けた洞窟の奥をじっと見た。
「よし、それじゃあリムルは前線を抑えてきてくれたら」
「は……フィル様は……?」
「子供たちを見つけたら帰るよ」
「そんな、なりません、フィル様に何かあれば私がカタリナ様に――」
「他に反応も無いし、隠蔽の痕跡も無いから大丈夫、だと思う。むしろ敵軍の鎮圧を急がないと現場の復旧も大変になるし、ソニアが避難させた子供たちも危険だから」
それでもと食い下がるリムルに、「これでも龍族の魔力を受け継いでるんだから大丈夫」と無理やり安心させる。
二、三さらに問答を重ねた後、リムルはしぶしぶと引き下がった。
「……分かりました。もし、万が一こちらで戦闘の反応があればすぐに参りますので」
そう言い残してようやくリムルは去って行った。
僕はその背を見送ってから、洞窟の中に足を踏み入れた。
■
中は思っていたよりも広かった。
直線距離だと大したことないと思えたのに、道が折れ曲がって入り組んでいるから進んでいるのか戻っているのか分からなくなる。これだと子供の一人や二人見かけたところで追い詰めるのに相当苦労すると思う。
「二人とも、僕だって分かってくれるかな」
ほとんど直観で歩を進めながら呟く。追っ手か何かと勘違いして攻撃してこられても困る――さすがに子供の攻撃に当たることはないだろうけど。
そうして、半刻程も歩いたかもしれない。
ようやく反応が近くなってきた。
それにしてもあの子たちはこの洞窟のかなり奥まで入り込んでしまったみたいだ。
もしかして、僅かにも龍族の魔力を受け継いでいるのかもしれない。そうじゃなければこの暗闇の中でこれだけ自由に動けるはずがない。
ふと、代わり映えのなかった景色に変化が訪れた。
「……明かりが、付いてる?」
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