四章 行方不明

 目的地であるギルボア山岳に着くまでには少し時間が掛かった。


 歪渦による移動も万能じゃなく、転移先にいる魔族と経路を繋げ合うか、自らが過去に定めたポイントに繋げるかのどちらかのパターンしかない。前者については歪渦を展開できるだけの能力を持った眷属が現地にいなかったため、近くの運用拠点に一度転移し、そこからソニアの飛翔魔法で移動することでようやく現場に到着した。


 月の明るい夜だった。それでもこうも魔族が多いと、背の低い僕の子たちは見つけるのに苦労する。


「どこに――ソーマ!」


 陣の一番後衛、おそらく指揮拠点だろう場所に足を付け、僕は声を上げた。


「お父さん! 来てくれたんだね! あ、ソニアさんも!」


 僕の声が聞こえたのか、ソーマが魔族の間からひょこっと顔を出した。目の前にいるソーマは、僕が十二、三歳だった頃くらいに見える。成長が早いといっても、さすがに僕の年齢を超えるような成長の仕方はしないとミルメアから教えてもらった。十七歳の僕にこんな年頃の子供がいるのは十分奇妙だけど。


「うん、無事でよかった。それで、もし分かれば状況を簡単に教えて欲しいんだけど。あと、戦場の指揮は誰が取ってるか分かる?」

「えっと――」

「それは私の方からご説明しましょう。フィル様」


 急に大人の声がした。よく知った声だった。僕は返事をしながら振り返る。


「ナダル――じゃなくてカナル、でもないね、えっと――」

「リムルです。ナダルとカナルは私の兄です」

「ごめん、一回会ってるよね。とにかくまずはありがとう。こんなに早く龍族が詰めてくれてるとは思わなかったよ」

「いえ。カタリナ様からの命がありましたので」

「そう」後でお礼を言いに行かないと。「ソニア、子供たちの保護をお願い。僕はリムルとこの戦場を収めてくる」


 説明は移動しながら聞くことにしよう。状況が分からない今は、時間を無駄にできない。


「はい、分かりました。けど無理はしないでください。フィルさん弱いんですから」

「今それ子供の前で言わないでよ。せっかく格好いい感じで登場したのに」


 ソニアがソーマを連れてこの場を離れていく。遠くなっていく二人の会話が聞こえた。


「ソーマ君、他の子たちの場所は分かる?」

「それが、まだ二人見つかってなくて――」



「あ、ちょっと待って!」


 耳の端で聞こえた会話に反応してしまった。ごめん、と一言リムルに断って二人に駆け寄る。


「二人って、誰がいないの? どこではぐれたの? どれくらい前?」

「ちょっとフィルさん、落ち着いてください。そんないっぺんに――」

「僕は落ち着いてるしソーマなら大丈夫だから。で、分かる?」

「いないのはキーンとカナだよ、ほら、どっちもついこの間入った――はぐれたんじゃなくて、そもそも俺とキーンの現場が違うんだ。あいつのは、ここからずっと南に行ったところ、峡谷沿いに進んで、右手に洞窟が見える辺り。時間は、襲撃があったのが二時間くらい前で、その時から姿が見えない」

「分かった。ありがとう」



 できればそのキーンの現場まで道案内を頼みたいところだったけど、これ以上危険を増やしたくもない。


 こんな時ミルメアが居てくれたら――



「リムル、今の説明で大体の場所って分かるかな」

「はい、大丈夫です」


 無いものを求めても仕方がない。僕は首を振って方針を決めた。

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