四章 正体不明の攻勢

 ちょうど書類の全てに目を通し終わった僕は、その束から三枚の紙を取り出してソニアに返した。


「――これとこれは、ちょっと内容確認してあげてほしい。特に障壁が無いのに当初予定より進捗が遅れてる件については、単に見積誤りで追加で人員が必要なんだったら調整すると伝えてほしい。あと、こっち。猫狼族ニャオウルフの集落から好評を得て調物まで頂いてるらしい。返礼品と、あと訪問の準備も整えてくれるかな」

「はい、分かりました」

「……どうしたの?」


 紙を受け取りながらも少し怪訝な顔をしたソニアに問いかける。


「相変わらずですけど、ホントに全部に目を通しているのか疑わしいスピードですね」

「ああ、これはね。魔法陣読むのに慣れてるから、それと比べると文字は大したことないよ」


 ソニアから受け渡された紙は、ざっと三百から四百くらい。それでも情報量としては魔法陣換算で十に満たない程だ。


「そもそも魔法陣って読めるようなものじゃないですけど」

「僕はどうしても魔法が発動できなかった頃があったからね――今もだけど。魔法陣の方でどうにかできないかってずっと研究してたから」

「その点でもフィルさんは先代の魔王とは似ても似つかないですね。あの方は魔法の才能は抜群でしたが、統治においては力で押さえつけるような方でしたので」


 人の話も全く聞かなかったですし、と一言付け加えられた。


「そういえばソニアは先代の魔王の補佐としても付いてたんだよね」


 見た目で騙されるけど、ミルメアもソニアも、僕なんかよりもずっと長く生きている。どれくらいかは知りたくないから聞いてもない。


 ソニアはそれもあって今は僕の補佐をしてもらってるんだけど、やっていた内容は全然違うらしい。僕は逆に力による統治なんてできないからね。力そのものが無いから。



 と、急に扉がノックも無く開いた。


「フィルちゃん――あ、ソニアちゃんも一緒だったのね。お邪魔しちゃったかしら」


 入ってきたのはユニフェリアさんだ。扉が開くまで気配がなかったから、すぐそこまで転移してきたんだろうと思った。部屋の中に直接入ってこない気遣いはあっても、ノックまではしないのがユニフェリアさんらしい。


「いえ、全然そんなことないです。えっと、用件はなんですか?」


 仕事に興味が無い人なので、何か無い限りここに立ち寄らない。


「そうそう、さっきソーマ君から連絡があったんだけど――」



 報告書に目を通していたから記憶に新しい。彼のチームにはカタリナの領地にある山岳地帯の現場で作業をしてもらっている。


「――所属不明の軍団から領地侵略を受けてる、って」


 こんな呑気に伝えてくれる内容じゃないと思った。


 僕ははじけるように立ち上がった。

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