三章 子作り




「……すっごく疲れた」


 十二人全員の顔と名前が一致するまで名前呼びゲームをさせられて、僕の体に纏わりついてくる子たちを引き剥がして、ようやくカナルかナダルかが皆を別の部屋に連れて行ってくれたところだった。


 今僕はミルメアの膝を枕の代わりにして寝転がっている。


「どう? パパの自覚出た?」


 自覚というか、あれだけパパと呼ばれ続けるのは洗脳に近いと思った。


「もう何回も言ってるんだけどね、先に説明が欲しいの僕は」


 あの子供たちがホントに僕の子供なのかどうかは、気になったけど聞くととんでもない怒りを買う気がしたからそれは無条件に信じることにした。


 代わりに、いつの間に子供ができて、どうしてこんな早さで成長したのかを説明してもらった。


 曰く、やっぱり僕が寝ている間の出来事だったらしい。


 ミルメアは少し恥ずかしそうに話してくれたから、そういう感覚はあるらしいと僕は変な安心感を覚えた。


 それから、ミルメアは魔系譜――人間でいう家系図のようなものらしい――で言うと、鬼と悪魔と淫魔の三つの種の魔力を引くと説明してくれた。それはいつか聞いた気がする。鬼族は子を成しにくい代わりに成長が早いという。悪魔という種は一度に産む子の数が多いという。そして淫魔は、子を産むまでの期間が異様に短いという。


 普通、魔系譜として複数の種族の魔力を受け継ぐメリットはそのそれぞれの強さや能力を受け継ぐことにあるらしいけれど、今回それが子をなすという点で働いた結果らしかった。


「……あたしも初めてだったから分からなかったの。それでも多くて五とかってママから聞いてたのに――あんたの魔力が濃すぎたから一回でああなったの」


 僕は無言を貫いた。似たようなやり取りをカタリナとやった記憶があるから、下手に踏み込まない方がいいことは分かっていた。濃いとか。そういうの。



「それで、あの子たちをこれからどうするつもりなの」


 経緯と結果は分かったところで、僕が気になるのはこれからの話だった。


「どうって、決まってるじゃない。戦闘教育して、この魔界を強くするための兵にするのよ。あんたとあたしの子なんだから、相当に強くなるに違いないわ」


 ミルメアはどことなく嬉しそうな口調で言った。

 親バカってこういうのを言うんだろうか。


 それから、どこの世界でも同じなんだろうかと、僕は少し嫌な気分にもなった。人間が魔法学校で子供の頃から教育して兵を育てるのと、なんら変わらないんだけど、それでも自分の子供を戦場に向かわせるために育てるなんて――それも人間を相手にする戦場に。


 自分の子供だからとかそういう話じゃなくて、普通にダメな気がする。


 そしてふと、思いついたことがあった。


「ねえ、ミルメア。変なこと聞いていい?」

「……あんたからそんなこと言われるとなんか怖いんだけど」


 いいけど、とミルメアは続けた。


「子供って、作るの大変?」


 了承を受けてから聞いたはずなのに、僕はぐいと膝枕から頭を下されてしまった。


「あんたって、デリカシー無いの?」

「だから前置きしたのに」

「質問の幅に限度があるわよ」


 もう、と一言呟いて、ミルメアが僕の質問に答えてくれた。


「産むのは別に大変じゃないわよ。作るのも――あんたなら大丈夫」


 僕なら大丈夫、というのはちょっと意味が違うみたいだった。


 というのも、淫魔という種族は子供を作るときに相手から大量の魔力を吸い取るらしい。それこそ、普通の人だと死に至るほどの。それが僕だとその心配が全くないと言う。実績もあるからそれはそうなんだと思う。


 それから、ミルメアは小さな声で後を続けた。


「むしろ今度はあんたが『起きてる』ってことの方がよっぽど大丈夫じゃないわよ」

「どういうこと?」


 僕が聞き返すと、今度はバシっと頭をはたかれた。痛い。


「察しなさいよ、バカ」


 聞くのはまた今度にしたいけど、多分僕の想像は当たってると思う。人間と、少なくとも淫魔という種族が子供を作るときのやり方は違いが無いんだと思う。


「えっと、ミルメア。もう一つだけ変なこと言っていい?」

「……何よ」


 これは、思いついたもののちょっと言うのが憚られた。


 けれど、この世界のためになることだ。


 僕は意を決して、その言葉を口にした。




「僕と――いっぱい子供を作ってほしいんだけど」


 また思いっ切り頭をはたかれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る