三章 種の保存
こんな状態でユリアさんに会えないし、あれ以上あの場にいられなかったしで、僕は適当に歩いて少し距離を空け、開けた空間に出たところで立ち止まった。
「ねえ。カタリナは僕に何をさせたいの」
唐突な質問だったらしく、きょとんとした表情を見せた。
ややあって、口を開く。
「言っただろ? フィルには王になってもらうって」
龍族の王が、どうして人間の女性を捕まえて、それから、ちょっと言えないけど、そんなことを強制させられないといけないのかが分からない。僕をダメ人間にしたいんだろうか。
僕がそのことを伝えると、カタリナはなぜか納得した様子だった。
「ああ、そういうことか。確かにな、これは滅多にないケースだからな。説明されないと分からないよな」
「まず僕は通常のケースも理解してないからね」
何回も言うけど、僕に魔族の常識を求めないでほしい。
そしてカタリナは説明を始めてくれた。
「そうだな……龍族はもう増えない運命にあった、ってところから話せばいいか? 今は私を含めて九しかいない。そして、その中で女は私で、その私が王だった」
龍族の女性は、自らよりも強い男性との間でないと、子孫を残すことができないという。王とは、龍族の中で最も強い存在であるということを考えれば、その運命は理解できた。
「それで、僕が王にならなきゃならない理由が分からないんだけど」
「……フィル、自分がどれだけ強大な魔力を持っているのか、本当に分かってないのか?」
そういえば、カタリナに勝負を挑まれた時にも同じことを言われた気がする。分かってないのか、と聞かれれば、分かってないと答える他ない。
どれだけあったとしても使い道がないんだもの。
体の外に出せないんだから。
「出せないって、それは魔法が発動できないってことを言ってるんだろ? じゃなくて種――」
「それ以上口にしたら怒るからね」
大体の状況は分かった。
龍族じゃないけれど、なぜか人間の僕はカタリナを上回る魔力量を持っていた。実際に戦ってみて、一定程度の強さを示すことができた。この二つの条件をクリアしたから、僕はカタリナのお眼鏡に適って例の呪いの首輪を嵌められたんだ。
「で、それはいいとして。僕が人間を増やして何かいいことがあるの?」
「それは分からない」
「分からないの!?」
サーニャをあんな格好にしておいて、分からないとは何事かと思った。
「あ、いや違うぞ、正確に言うとどうなるか知ってはいるんだけど、私が実際にどうなるか目にしたことが無いって意味だ」
「意味が分からない」
「えっと、つまりだな――」
過去、そういった事例があったらしい。つまり、外部の種族が龍族の王となった場合に、その王が元の種族と交配した場合に生まれる種は、また龍族となる場合となる。
つまり僕が例えばサーニャと――いや、この例はやめよう。僕が将来誰かとの間に子供ができたとしたら、その子供は龍族として生まれてくる、ということらしい。
つまり――
「龍族が絶滅するか否かは、僕にかかってるってことかな」
「やっと分かってくれたか」
「……重すぎるんだけど」
それは、カタリナというか龍族の都合で、そんなことを望んでいる人は誰一人としていないと思う。けどもし一人くらい居てくれたら嬉し――いやそんなことは考えちゃだめだ。僕の呟きは聞こえなかったのか、カタリナは言葉を続けた。
「できれば、私だけにしてほしい気持ちはある。あの戦場で、私が最も強い存在であることはフィルにも分かってもらえたはずだ。けれど、フィルがやっぱり私なんかより他の――人間がいいと言うなら、我慢する」
カタリナにとっては
それと、どうにも感覚がずれている気がすると思った。我慢というなら、もっと他に我慢してることがあるんじゃないかと、僕はずっと気になっていたことを口にした。
「カタリナも、無理しないでいいと思うんだけど。その、より強い種の保存をって気持ちは分かるんだけど、それだけのためにそういうことをするのは――」
やっぱり違うと思う。
カタリナは俯いて、それから少し寂しそうな声で僕に訴えかける。
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