三章 みなまで言うな
「あれ? カタリナってそんな身長だったっけ」
「ん、そうだぞ?」
ミルメアよりも高かったはずだ。
そして僕とミルメアは、同じくらいの身長だ。
つまり、こうしてカタリナが僕を見上げているのはおかしい。ふと足元を見ると、カタリナは素足だった。あの時は厚底か何かを履いていたんだっけ。
「『準備が整った』って言ったろ? フィルの体が大きくなったんだよ」
「え……嘘」
それだと僕はこの三日寝てただけで十数センチは高くなったことになる。服のサイズも合わなくなって――
「――確かにこれ僕が今まで着てた服と違うね」
誰に着替えさせられたんだろう。暗闇にいた間は気が付かなかったけれど、いつの間にかローブの色は黒じゃなく濃紅色になっていた。
「おう。ナダルに手配させた」
「そういえばさっき聞きそびれたんだけど、その『準備』って何の準備なの?」
「……また私にそれを言わせるのかよぅ」
僕の脳裏に、よぎるものがあった。
これは、あれだ。
僕がここに強制的に連行された時に聞いたやつだ。
「私との子づく――」
「ごめん、言わなくていい」
「――りの準備に決まってるだろ」
「言わなくていいって言ったよね」
それからカタリナは、僕の体に起こった変化について教えてくれた。
一つは、龍族の魔力が流れるようになったこと。
魔族には、異種族の交配ができる種とできない種があるらしい。淫魔などは前者で、龍族は後者だ。それは女性側の体内に異なる種の魔力が流れ込んだとき、防衛反応で殺してしまうかどうかによると言う。
「殺すのは魔力っていうか子種だな」
「だから言わなくていいったら」
もう一つは、僕の遺伝子が子に残すにふさわしいものに組み換えられたこと。体の成長は、その影響によるものらしい。魔法の力と言われてしまえばそれまでだけど、それにしても相当複雑な術式と膨大な魔力が必要になる。
「その両方を兼ね備えたのがあの首輪だったというわけだ」
「隷属の効力もでしょ」
ああ、そうだったとカタリナが思い出したように言った。カタリナからすれば、そっちがおまけの効力みたいだった。
「あれは先祖代々の龍族の魔力の結晶だからな。もうほとんど呪いのアイテムに近い。あんなもの付けられたら普通なら死んでしまう」
「なんてものを僕に付けたの」
無事だったから良かったものの。
「着いた、ここだ」
カタリナが特に何もないところで立ち止まった。
「この出入口は龍族にしか開くことができないんだ――試してみるか?」
そう言いながら地面を指さし、手のひらをかざすように促される。
「龍族にしか開けないんだったら――」
あ、そうか。
僕はもう龍族になったんだっけ。
そもそも僕の体にはミルメアの魔力も流れてた気がするんだけど、あれはどこに言ったんだろう。
考えている間に、ちょうど僕たちが立っている場所を中心に魔法陣が展開された。僕が魔力を流し込んだわけじゃないけど、初めて魔法を自分で発動できたような気分になった。
龍族も悪くないかもなんて思う。
「いい感じに馴染んでるみたいだな」
カタリナが嬉しそうに言った。
僕たちは現れた地下へと続く階段を下りていった。
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