三章 子供は世界
三章 空白期間の真実
ぎゅむ、ぎゅむと、僕は全く抗えない力によっていいようにおもちゃにされていた。
じめじめとした鍾乳洞のような空間。浮かぶスライムのような物体をハンモック代わりにして、僕たちは揺られていた。
「ふぃるー、ふぃるー」
「……はい、なんでしょうか」
「つよいなーお前は。かっこいいなーお前は」
僕に怒号を吐いたのと同じ口から、甘い猫撫で声で僕を愛でるカタリナさん。尋常じゃない力で両足が僕の腰に絡みついていて、抜け出せる気が全くしない。僕はさっきからぐしゃぐしゃと頭やら体やらを撫でられるままになっていた。
「……どうしちゃったのカタリナさん」
「私のことはカタリナとよべー」
ホントにどうしちゃったんだろう。
見た目はあのユリアさんより少し若いくらいに見えて、少なくとも僕よりは年上だろうから呼び捨ては憚られた。ミルメアは、あの通りだから別に気にならない。
「あの、そろそろ――」
「おー? もう準備ができたのか?」
何の心当たりのない言葉が投げかけられる。そろそろ、とりあえず離してほしいんだけど。
「準備って、何の……?」
「……ふぃるー、私に言わせるのかよー……子作りに決まってるじゃんかよー」
「こっ――!?」
いや待て僕、落ち着け。
魔族のそれが、人間でいうそれと同じとは限らない。
カタリナさんが言うには、そもそも何か準備がいるみたいだし。
「……え、えっと」
二の句が継げなくなった。
言い淀む僕に対して、何かを察したのかカタリナさんの締め付けがぎゅうときつくなった。
「なんだよぅ、私とじゃできないって言うのかよぅ」
口をちょんと尖らせ、非難の声を上げる。できないって、何を、って聞いちゃうとそれはもう後が無くなってしまう気がしたので僕は沈黙を選んだ。
魔族だとかどうとか、この距離でくっつかれたらそんなの関係なくなる。
だってどう見ても普通のショートカットの女の子だもん。
学校生活の中で女生徒とこんな親密になることがなかった僕は、さっきから心臓が張り裂けそうな状態をずっとキープしていた。これ以上は僕の何がどうなってもおかしくない。
「ミルメアとは毎日してたくせに――」
「してない!?」
沈黙を貫く戦略はカタリナの一撃によって破られてしまった。なんてことを言うんだこの人は。
「嘘だ。だってミルメアが私に言ってたぞ、毎日毎日――」
「待って待って待って」
そんな事実は、一度もない。
「何を言うのもう。そもそもそんな話してる暇なんてなかったじゃない」
いきなり扉を蹴破って、言い争って、それから試合だ。
嵐のような展開でどこにも歓談の時間はなかった。
「むう、フィルの方こそ何を言うんだ。ミルメアはこの一か月間ずっと暇だと言い続けてたぞ」
「……一か月?」
僕の呟きに、カタリナは頷いた。
そんなはずはない。
ミルメアに連れられて王宮に侵攻したその日から、まだ一日と経っていないはずだ。
そして僕は単純にそれだけのことを伝えたつもりだった。
けれど、僕の説明が悪かったのか、それを聞いたカタリナは目を輝かせた。
「なるほど、そうだよな! やっぱりこういうのはいきなりじゃなくて戦場を共にした後だよな!」
僕は頭の整理がつかないまま、カタリナによってまたどこかわからない場所に転送されることになる。
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