一章 試験内容変更
そこでようやくドーランが足を止めた。つられるようにしてケルンも止まる。
「ホントか? 俺は何も感じないぞ」
「私もだけど」
この二人は、僕を信用していない。
試験の邪魔にならないよう、僕に探査の役割を与えて後方に留め置くようにしたのは二人の案だ。二人はその上で、自分たちでも『魔力探知』の魔法を常時発動している。一キロ圏内の魔力反応を察知可能な簡単な魔法だ。
その網に引っかかっていないという。
「うん。僕も魔力は感じてない。つまり、他の生徒の組とか軍の人とかじゃなくて――」
「一般人ってこと?」
サーニャが僕の言葉を受けた。僕は黙って頷く。
「おいバカ言えよ。この森で『渦』が消えてから三日も経ってないんだぞ。一般人なんているはずがない」
半分は、ケルンの言う通りで間違いない。
今僕たちが実践演習の場としているのは、魔界とこの世界を繋ぐ『
実際に襲撃を受けたのは、近くのミケドニア地区。魔法兵団によって撃退された魔族は、このウェスレムの森まで追い詰められ、『
けれど、Cランク以下の魔族はいわゆる『回収漏れ』に遭ってこの辺りを彷徨っている。
僕たちがやっているこの実践演習とは、いわばその残党狩りのようなものだった。
「けど、現にこうして反応があるんだ。規制を知らずに迷い込んだ民間人かもしれない」
もともとこの森は、そのミケドニア地区の住人が狩りや採集の根城としていた森だ。
「規制を知らないとかそんなことあるかよ。地区に勅令が出てるんだぞ」
分かってるよ、それくらい。
けどそれだと生活が成り立たないから、民間人が規制区域に忍び込むというのはよくあることだ。そういう言い回しにしたのは、高等部のこの人がいる手前、気を遣っただけ。
「いずれにしても、放置しておくのは危険じゃないかしら」
「うん、私もそう思う。いくら猟師でも魔族に普通の銃は効果が無いから……」
「まあ、逆に俺たちに銃弾は効くからな。間違って撃たれた日には目も当てられない。フィル、ちなみに方向はどっちだ」
「十時の方向。一・三キロほど。魔物の反応は十二時に――一・八キロほど」
「動き方によっては接敵する距離ね」
ドーランの言う通りだ。今回の卒業試験として求められている内容は、一定量の魔族の討伐だけれど、この状況においては判断が求められる。
「――君たち」
急に、第三者の声がして、僕たちは咄嗟に身構えた。
その声の主は、例の付き添い役だと分かった。
「試験予定の変更だ。私の方でも、民間人と思しき反応を確認した。近衛兵団第二軍隊員として告げる。目標を民間人の捕縛として、これより私の指揮命令下に入り行動してほしい」
「え、ぐ、軍隊員さんだったの!?」
ケルンが頓狂な声を上げた。
ただの高等部の生徒だと思ってのさっきまでの発言を後悔しているところだと思うと、少し面白かった。
「正確には内定者だがな」
覆面のせいで少しくぐもった声。
高等部は、そこまで進学ができていれば実質的に軍配属が確定しているようなものだった。つまり、僕たち初等部の卒業判定よりもずっと前に進路が決まっている。
気付くと、その人の眼前に小さな魔法陣が展開されていた。
「私の『
ローブで覆われているその耳元を指し示す。何らかの魔法具備が仕込まれているんだろう。
「――民間人のこの区域への侵入許可を出した記録はなかったとのことだ。従って、繰り返すが目標は『保護』ではなく『捕縛』だ。意味は分かるな?」
「対象が抵抗した場合、死なない程度に反撃を加えても良いものと理解しました」
ドーランが言う。試験官は首を縦にも横にも振らず、言葉を続けた。
「それともう一つ。俺は試験の中断ではなく、予定の変更と言った。これ以上は自分の頭で考えろ」
それを聞いて、僕の心は弾んだ。
願ってもないチャンスだ!
僕の武器は、援護には使えこそすれど、魔物には通らない。だからこの実践演習で成果を残すのは絶望的だと思っていた。けれど、こんな形で機会が得られるなんて!
僕はローブの袖の上から、パキと右手首の腕輪のロックを外した。
編成は、試験官を戦闘に、ケルン、ドーラン、サーニャ。そして僕の配置だった。
■
接敵。
そこからは一瞬だった。
目視で確認した時にはもう遅かった。
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