ある月曜日の朝

昨日の夜、ある女生徒からLINEがきた。自分の担当するクラスの生徒である。言っておくがやましい関係ではない。LINEは以前相談を受けた際に向こうに言われて交換したものだ。

まあそれはさておき、教師である自分が勤務する学校に朝4時という馬鹿げた時間に来る羽目になったのは、そのLINEのためである。

「9/14 朝4時 学校の東側」

「ごめんなさい先生、トラウマになるかもしれない」

このたった二つの意味不明なメッセージだけ。

自分達は決して親しいという訳では無い。よって冗談をLINEで送り合うような関係でもない。しかもこれが送られてきた時刻は深夜(ほんの二、三時間前)だ。

少しの胸騒ぎを覚えて、四時になる数分前に学校に到着した。遅刻常習犯の自分にしては早く来た方だ。

「東側...」

日が昇る方か...と昇ったばかりの太陽を目印に校舎の周りを歩く。

角に差し掛かろうかという時、つんと、鉄の匂いがした。

寝ぼけていた頭が一気に覚めた。最悪の想像と、女生徒の顔が脳裏をよぎる。気がつけばらしくもなく全力で走っていた。

そして、十秒と待たず視界に入ったは、自分の予感が的中したことを告げていた。

「名...藤...ぁ......ああぁ...」

血溜まりの中にうつ伏せに横たわる、名藤霞の死体が、そこにはあった。

腰が抜けてその場に崩れ落ちたあと、強烈な吐き気を抑えられずその場で吐いた。

そこでようやく、地面に封筒が置かれていることに気がついた。普通の、可愛らしい手紙の封筒だ。

宛名は大きく___『先生へ』


彼女が書いたものだと、すぐに悟った。

震える手で封を開いた。中には2枚の、封筒と同じデザインの便箋が入っていた。

『先生へ』

『この手紙を読んでいらっしゃるということは、目の前に私の死体があるということでしょう。きっとパニックになられると思うので、ここに先生がやるべき事を明記しておきます。』

ここで初めて、自分がパニックになっていることに気づいた。

『1.まず警察を呼んでください。もし私がまだ生きているようでしたら救急車も。2.他の人...特に生徒に私の死体を見せないようにして下さい。トラウマになってしまうでしょうから。3.屋上に遺書があります。その旨を警察に伝えてください。4.次の手紙を読んだら、その紙を燃やしてください』

1枚目はこれで終わり。

取り敢えず110と119をたどたどしく入力して学校の所在を伝えた。

なるべく名藤の死体を見ないように二枚目を読む。

『先生、私が死んだ理由、分かりますか?きっと分からないと思います。この世の誰だって。遺書に理由などは述べてありますが、あれは全部建前。大嘘です。これは先生にしか明かさないので、誰にも言わないでくださいね。

さて先生。人生で唯一、私はあなたに感謝を告げたいと思いました。ありがとうございました。1ミリでも私を分かろうと努力してくれて。私を私として見ようとしてくれて。本当に、ありがとうございました。』

パタパタと、紙に丸いシミができた。いくつも、いくつも。それは地面にもでき、留まることを知らず増えていった。

だが、手紙によって生み出された涙は、手紙によって止まる。

『PS___

惜しかったですね、先生。』

惜しかった...惜しい...?

それは、つまり________

「届いて、なかったって事かよ...なあ名藤...」

名藤霞の死体はもちろんなんの反応もしなかったが、どこからか勘違いしていた愚かな自分を嘲る様な声が聞こえた気がした。


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