第12話 クズ王の来世ってアレなんだ……


 リリスたちの案内に従ってアベイユの森を進むこと一時間。


 魔獣は、森の奥へ行くほど強く、そして種類は多彩になっていった。


 リリスの話だと、レッサーゴブリンとグリーンスライムの危険レベルが1。

 ゴブリンが2。

 キバザルが3。

 オオナメクジが4で、一般兵でも、油断さえしなければ倒せる相手らしい。



 でも、森の奥へ進むと、さらに多くの魔獣と戦うことになった。


 火打石の前歯を持ったネズミのフリントマウスは、危険レベルこそオオナメクジと同じ4だけど動きが速くて、素人の俺では対応しにくかった。


 それに、頭にツノの生えたウサギのアルミラージ、レベル5。

 こいつらは、兵士でも油断すれば殺されてしまうらしい。


 訓練のために、途中からは闇魔法を使うのはやめた。

 ノームの土魔法がなければ、俺も簡単に食べられてしまっただろう。


 余談だけど、途中でスカトロワームを見た。

 大根のように太い体で、長さは一メートルぐらい。

 体をぐねらせながら、魔獣の糞に食いついていた。


 ――クレイズ王、来世あれになるんだなぁ……。


 と思うと、なんだか複雑な思いになった。

 


「ん? リリス、あれって……」

「気が付いたようね」


 俺と同じ魔獣に視線を注ぎながら、リリスは説明をし始めた。


「あの木の影からこっち襲うタイミングを狙っているのはイワトカゲ、あっちの胴体と頭が甲羅で覆われているのはヨロイダヌキ。どっちも硬い表皮が自慢よ。ああした敵に、岩弾は効くのか……結論から言えば、精霊ノームの加護を受けた岩弾なら、威力が段違いだから一発で粉々にできるわ。でも、より賢く勝つなら」


 リリスの説明が追いつかず、イワトカゲとヨロイダヌキが跳びかかってきた。


「わっ!?」

「まず、地面から石柱を出して下から突き上げて!」

「はい!」


 二本の石柱が地面から飛び出して、イワトカゲとヨロイダヌキの腹を打ち上げた。二体の体にヒビが入る。


「それから炎で焼きなさい」


 両手から炎の渦を放って、二体を飲み込んだ。


 赤い炎の中で、イワトカゲとヨロイダヌキは暴れ、すぐに動かなくなった。


 二体を影の中に収納しながら、リリスは言った。


「たいていの魔獣は、お腹までは硬くないわ。下から突き上げてダメージを与えてから熱で内臓を焼いてやれば、たいていは殺せる。ただし、ゴーレムみたいに生きた岩や鋼みたいな敵だと、この手は通じないから気を付けてね」


「そういうのと当たった時は、どうするんだ?」

「超破壊力でゴリ押ししかないわね。だから岩や鉄の敵は基本強敵だと思って。まぁ、ダーリンはレガリアがあるからいいけど」


「うわぁ、出会いたくないなぁ……」

「これから一国をも亡ぼす災害獣と戦うのに何を言っているのよ」


「ちなみに、さっきの奴の危険レベルは?」

「イワトカゲが9でヨロイダヌキは13。上級兵士でも、勝つのは難しいわね。でも71のエンペラーホーネットに比べれば雑魚よ」

「…………」


 数字が大きすぎて実感が湧かないのか、俺は、エンペラーホーネットの強さよりも、自分の魔法の強さに驚いた。


 上級兵でも勝つのが難しい魔獣を、俺は今、魔法で簡単に倒してしまった。

 そのことが、信じられなかった。


「!?」


 虫の羽音を感じて、俺は顔を上げた。


 正体はわからない。まさかもうレギオンホーネットが?


 そう思いながら、俺は反射的に、岩弾を放った。


 ビキッ

 甲殻が割れる音がして、地面に犬ぐらいの大きさがあるテントウムシが落ちた。


 背中にバラのようなトゲが、いくつも生えている。


「トゲテントウムシ、これも危険レベルは13ね。でも、コイツが出てきたということは、そろそろ昆虫型魔獣のテリトリーかしら。ダーリン、ここから先は、また闇魔法を使っていいわ。その代わり、一気に行くわよ」

「ど、どうしたんだ急に?」

「ここまでの戦いで、ダーリンは魔獣を相手にする、魔法を使う、魔法を魔獣に当てることに大分慣れてきたからよ。あとは、レギオンホーネットを仮想エンペラーホーネットとして戦えば十分だわ。それに」


 リリスは、眼差しからやわらかさを抜いて、声音を厳しくした。


「レギオンホーネットは、人間を巣に運んでから食べるわ。一秒でも早く巣を潰せば、その一秒で助かる人が増えるかもしれないわ」


 想像して、俺は嫌な気持ちになった。


 大きな蜂に攫われて、食べられる。


 それはきっと、奴隷頭や先輩奴隷に殴られる日々よりも、ずっと怖くて辛いに決まっている。


「急ごう! 案内を頼む!」

「流石はダーリン」


 正直、少し緊張する。

 でも、いざとなればリリスたち六人が助けてくれる。


 その頼もしさで、俺は頷いた。


   ◆


 強化された肉体で森の中を疾走すること五分。


 連中は姿を現した。


 クマのように巨大なハチが、何体も飛んできた。


 はちみつ色の外骨格は金属のような光沢を持ち、長く鋭い六本の脚は、ひとつひとつが、剣のように鋭利だった。


 頭から生えた二本の触角は獲物を求めて騒がしく暴れている。


 なにもかもが人間とは違い過ぎる昆虫。それが人間よりもさらに巨大になると、本能的な恐怖と嫌悪感が強い。


 でも、ここで俺が逃げたら、これからも多くの人たちが不幸になる。


 そう思うと、恐怖よりも、怒りに似た激しい闘争心が湧いてきた。


「喰らえ!」


 レギオンホーネットの危険レベルは30。一個小隊、あるいは、軍の剣術指南役にも匹敵する。


 だから、岩弾を、少し強めに放った。


 矢のような速度で飛来した岩弾に、レギオンホーネットは一瞬反応したように見えるも、腹に直撃を受けて、墜落していく。


 闇魔法で、視界は封じている。


 嗅覚と空気の流れから何かを感じ取ったのかもしれない。


 それでも、視界を封じられては、完全回避は不可能だったらしい。


 体に岩弾を受けたレギオンホーネットは、外骨格の砕けた部位から体液を流して、一体、また一体と墜落して、地面に触れるとそのまま影の中に落ちていく。


 でも、巣が近いのか、徐々に数が増えてきた。


「ハニー、ここからは必要に応じて、ボクのレガリアを使って近接戦も交えて」

「わかった!」


 言われてから、腰のブレイドを思い出した。


 素人のせいか、魔法以外の選択肢を失念していた。


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