第8話 クズ王は宝剣を失った
「【魔獣】とは、人間以外で魔力を持った生物のこと。人間を餌にすることが多いわ。そして魔獣は、【地脈】と呼ばれる大地を流れる魔力の影響を受けるの」
「それって、つまり、地脈が強いところの魔獣は強くなるとか?」
「その通り、やっぱりダーリンは頭がいいわね」
「そ、そうかな……」
照れ隠しに、俺は頭をかいた。
「地脈の流れや魔力の量は、年々変化するのだけれど、数百年に一度、極端に活性化する時期があるの。その時期は急激に魔獣の数が増えて、凶暴性を増し、その時期にだけ現れる強力な魔獣も生まれるわ。一体で国を滅ぼし伝説にも名を残す災害獣たちが最たるものね」
「今回のエンペラーホーネットが、そうなんだよな?」
「ええ。精霊界では、魔獣に危険レベルという評価をつけているのだけど、レギオンホーネットは30。一体で軍の戦闘指南役、もしくは一個小隊並の危険度よ」
「指南役級!?」
昔、練兵場の整備をさせられている時、剣術指南役の鬼軍曹を見たことがある。
次々襲い掛かる兵士たちを木剣一本で一撃一殺、死屍累々の惨状を作り出していた。
あの時は、世の中にはこんなに強い人がいるのかと、心底驚いた。
一体一体があの人レベルって、バケモンじゃないか。
「普通なら、群れのリーダーはクイーンホーネットっていう危険レベル50。英雄や一個連隊(2000~3000人)クラスの魔獣なのだけど、アベイユの森のクイーンホーネットは、世継ぎにエンペラーホーネットの卵を産んだわ。その危険レベルは71。それこそ勇者が相手にすべき案件よ。軍なら、数万人規模の兵力が必要ね」
あまりに突拍子もない話に、俺は息を呑んだ。
「あの、リリス。それって軍を派遣しなかったクレイズ王のこと、あんまり非難できないんじゃ? 手に余るよな?」
「それは違うわね」
リリスは、きっぱりと断った。
「エンペラーホーネットは巣に引きこもっているし、実際に領民をさらっているレギオンホーネットはあくまでレベル30。一個小隊と言えど、たかが一個小隊。一個大隊や連隊を派遣すれば十分対処できる。討伐できないなら、領民を避難させるとか、勇者や英雄と呼ばれる人材に対処を依頼するとか、やれることはいくらでもあるわ。なのに、領主もクズ王も、まったく何もしなかったのよ。検討すらしなかったわ。しかも、お金と兵力を使いたくないからという理由で」
「それは……確かに悪いな」
――やっぱり、クズ王はクズ王か。
「納得してもらったところで、本題中の本題、本日の要を議論するわよ」
「要?」
「そう、ずばり、誰がダーリンと相乗りデートするかよ!」
リリスは握り拳を作った。
「え? どういうこと?」
「流石に、この巨大なヤドリカリクンで森までの移動はできないわ。途中には塀や街道もあるもの。だから、途中からはルキの召喚獣である馬に乗り換えてもらうわ」
――ルキ? ヴァルキリーのことかな?
「それで、ダーリンとラブラブ二人乗りをして絆を深めて、リータの次にレガリアを開放する子を決めるの。さっ、我こそはというものは名乗り上げなさい」
「じゃあボクやりたい」
「リータはもうレガリアを解放させているでしょう?」
「ちぇっ」
リータは、ちょっとつまらなさそうにくちびるを尖らせた。
「ではリリス殿、不肖、このウンディーネめが、その大役を賜りたく思います!」
銀髪黒目で、白いセーラー服姿の美少女、ウンディーネが立ち上がり、鋭く敬礼をキメた。
その目は、まるで戦場に臨む騎士のように燃えていた。
「他にいなければディーネに任せるけど、どお?」
「ディーネがそんなにやりたいならあたしはいいわよ」
「私も、別に急ぐつもりはないもの」
黒髪金目で着物姿のシルフと、金髪碧眼で精霊界の軍服らしい服を着たヴァルキリーが、さらっと言った。
ノームは、リータの膝の上でおいしそうに紅茶を飲んでいた。
リータにほっぺたをぷにぷにとつままれて、無表情なのに楽しそうだ。
「じゃあ決まりね。ワタシたちはダーリンにしか姿が見えないよう、姿を消してから空を飛んでいくわ。ディーネ、ダーリンを頼んだわよ」
「お任せください! サトリ殿を、完璧にエスコートしてご覧に入れます!」
「俺がエスコートされるの? いや、そうだよな。俺ただの奴隷だし、精霊のウンディーネのほうが強いもんな」
でも、なんだか釈然としなかった。
◆
サトリがラブコメをしている頃。
城の執務室では、クズ王ことクレイズ王が絶叫を上げていた。
「宝剣の復元が不可能とはどういうことだ! オリハルコンやミスリルなどの神造金属でできた武具は、自動修復能力を持っているのではないのか!?」
神造金属とは、神々やそれに類する超常の存在が、人間界にもたらした金属の総称だ。
オリハルコン、ミスリル、アダマント、アンオブタニウムなどがそれに該当する。
これらは鉱山から出土することはない。
超常の存在から、直接賜るしかない、超稀少存在だ。
「陛下のおっしゃる通りでございます。しかし、それにも限度がございます」
宮廷魔術師の老人は、委縮しながら、クズ王をなだめるように弁明を続けた。
「僅かな刃こぼれ、ヒビ、折れても片割れが無事な場合は、復元もするでしょう。しかし、この度は高熱で剣身全体が液状化してしまいました。絨毯や石床と一体化したまま冷え固まり、今は見るも無残な有様で、復元は望めません」
「ぐぐぐ、我がフリューリンク王家に伝わる宝剣が、あ、あんな奴隷の小僧の手で失われたと申すかッ!」
クズ王は顔を真っ赤にして、奥歯が砕ける寸前まで歯を食いしばった。
そこへ、宮廷回復魔術師をしている男性が駆け込んできた。
「陛下、ヴェスター王太子の容態について、ご報告があります!」
「おぉ、それでどうだ!? 我が息子の体はいつ治る?」
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