第7話 ハニーに対抗してダーリン呼び始められました
「どうやらリータにLOVEらしいわね。いい傾向よ。でも、イチャラブもいいけれど、そろそろお勉強の時間にもどっていいかしら、ダーリン?」
――ダーリンって、リータに対抗しているのかな……?
輪郭に指を添えながら、尋ねてくるリリス。
俺は、熱くなった自分の顔を叩きながら、背筋を伸ばした。
「ごめん。続けて」
「素直でいい子ね。だから大好き。そんなわけで、ワタシたちはダーリンに聖剣にも劣らない武器、レガリアを与えられるわ。実際、王家に伝わる宝剣も一撃だったでしょう?」
言われて思い出す。
フリューリンク王家に伝わる家宝の宝剣。
アンオブタニウムとかいう、伝説の金属でできていたらしいけど、ブレイドの一撃で、簡単に溶けて崩れてしまった。
Aランクとか、民話級とか、なんだか凄そうなことを言っていたけど、それが眉唾に思えてきた。
「でも、武器なんて貰っても、俺は剣術とか使えませんよ」
「だから三つ目の【戦闘技術】が必須なの。レガリアを召喚した時のダーリンには、レガリアを十全に使えるだけの戦闘技術が宿るわ。イフリータのブレイドを握れば、その瞬間から剣の達人なんだから」
「達人、俺が……」
やっぱり俺も男なのか、剣の達人、という言葉に、少し心がハシャいでしまった。
「だからワタシたちの加護があれば、ダーリンはほぼ無敵。災害獣や他の勇者や英雄と呼ばれる人たちを除けば、勝てる者はいないわ」
「災害獣には負けるの?」
――それは、話が違うような。
「今のまま戦えば、の話よ。さっき言ったこと、覚えている?」
「あ……」
『使いこなすには多くの経験が必要だし、無敵の能力はないわ。加護は有利であっても絶対ではない、そのことだけは覚えておかないとダメよ』
「人の話はきちんと聞いていたみたいね。嬉しいわ。そう、戦いはかけっこや腕相撲じゃない。ただ巨大な力をぶつければいいわけではないの。勝利には、戦略も必要よ。というわけで、これからダーリンには【属性】が持つ特徴を覚えてもらうわ」
「属性って、攻撃魔法の中の、炎とか水とかそういうのだよな?」
「ええ。でも例えば、ゴブリンが襲ってきたら、ダーリンはワタシ達の中のどの魔法をぶつける?」
「攻撃魔法なら、どれでもダメージは与えられるだろうし、どれでもいいんじゃないの?」
「それがそうもいかないわ。確かに、雑魚なら誰の魔法でも倒せるけど、ある程度の強さを持った敵の場合は、状況に応じて適切な特徴、効果を持った属性魔法をぶつける必要があるの。これから、その点について説明するわね」
そう言って、リリスは詳しく解説してくれた。
彼女の話をまとめると、こんな感じらしい。
【炎】火が燃え移れば、追加ダメージを与えられるが、質量がないので突進を止められない。敵をぶっ飛ばす力は弱い。
【土】質量が多く敵をぶっ飛ばす力が強い。岩をぶつけたり足場を崩すなどして突進を止め、真下からの攻撃も可能だが弾かれやすい。
確かに、火を殴っても拳が燃えるけど、岩を叩き飛ばせば、まるごと跳ね返せる。
【水】直接的な破壊力は低いが、無傷で敵を無力化できる。
【風】直接的な破壊力は低いが、目に見えないので隠密性が高い。
【癒し】厳密には生物の肉体、細胞だかを司る力らしい。体の傷や病を癒すだけでなく、皮膚や筋骨を強化して、肉体性能を上げられる。
【闇】光を消滅させる力。自分以外の者から光、視界を奪う。さらに音波、電磁波も消滅させて、上達すると、分子結合力だかを消して物質を原子レベルで破壊できるとかなんとか。よくわからん。
「あと、炎は敵の体全体を痛めてしまうから、魔獣の皮とか肉とか素材を売りたいときはオススメできないわね。とにかく、基本は癒しの力で肉体を強化しつつ闇で相手の視界を奪って、炎か土で攻撃。殺さず無力化したいときは水、こっそり攻撃したいときは風って覚えて」
「わかった」
「つまりボクとノームの力が基本だね」
リータが、小さなノームを抱き上げて、自分の膝の上に乗せた。
ノームは、無表情のまま、なんだか心地よさそうにリータのおっぱいに後頭部をうずめた。ちょっと羨ましい。
なんて考えていると、リータがニヤリと笑った。
「ハニーにもあとでしてあげるから、そんなもの欲しそうな顔しないの」
「うぐっ」
――俺ってそんなにわかりやすい顔しているのかな……。
自分の顔に手を当てながら、ちょっと不安になった。
「次に、敵の説明をするわね」
リリスは先生口調で、話題を変えた。
「今回の敵はエンペラーホーネット。蜂型魔獣のレギオンホーネットから生まれる災害獣よ。お城でも説明したけど、餌は人間で近隣の住民が多く攫われているわ。普段はここまで大規模な捕食はしないのだけれど、地脈の活性化による大繁殖とエンペラーホーネットの餌が原因でしょうね」
「あ、そのことなんだけど、なんでリリスは、人間界の事情に詳しいんだ?」
「ワタシたち精霊は、人間界の様子を覗き見ることができるのよ。特に、ここ数年は数百年に一度の大災害だもの。人間界の観察は日課よ」
「大災害。お城の人たちが喋っているの聞いたことあるけど、魔獣がめちゃくちゃ増えることをそう言うんだよな? それって数百年おきになってるのか? なんで?」
「それを説明するには、まず、魔獣とは何か、というところから説明する必要があるわね」
リリスはティーカップの取っ手を指先でつまむと、紅茶を一口飲んだ。俺とは違う、仕草の上品さに、ちょっと恥を覚えた。
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