第6話 彼女たちが俺のことを好きな理由

 しばらくして、俺のお腹と心が満たされると、リリスがやや先生口調で話し始めた。


「じゃあ、ちょっと戦い方、勇者の力について説明するわね」

「あ、うん、頼むよ。でも俺、本当に戦いの経験とかまったくないんだけど、大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。まず、勇者とは何か。それは神や精霊など超常の存在から特別な加護を受けた人、あるいは、選ばれし者しか抜けない聖剣とか、選定の剣を持つ人よ」

「へぇ、そうなんだ。てっきり、人々を救う人全員を言うんだと思っていたよ」

「一般人でそういうことをすると、英雄って呼ばれるわね。そしてアナタは勇者よ。だって、ワタシたち六人の加護を得ているんだもの」


 ちょっと得意げに、リリスは他の五人みんなのことを手で指し示した。


 炎の精霊イフリータ。

 水の精霊ウンディーネ。

 土の精霊ノーム。

 風の精霊シルフ。

 癒しの精霊ヴァルキリー。

 闇の精霊リリス。


 いま見ても、凄い顔ぶれだと思う。


 というか、同時に六人の加護って、ありなのか?


「ワタシたちの加護は色々あるけれど、主なものは3つ。【魔法】【戦闘技術】【レガリア】よ。一つずつ説明するわね」


 言って、リリスは桃色のロングヘアーを撫でつけながらほほ笑んだ。


「まず、経験によらず、炎、水、土、風、癒し、闇の魔法が使えるようになるわ。それも、達人の域で」

「え、なにそれ反則じゃん!」

「加護とはそういうものよ。だってそうでしょ。本人はなんの努力もしていないのに超常の存在から一方的に特殊能力を貰うんだから。でも、それを使いこなすには多くの経験が必要だし、無敵の能力はないわ。加護は有利であっても絶対ではない、そのことだけは覚えておかないとダメよ」


 出来の悪い子に噛んで含めるように言いながら、リリスは俺の額を突っついてくる。


 恥ずかしいし馬鹿にされている感じがするけど、不思議と嫌じゃなかった。


 ――これが、家族とのスキンシップ、なのかな?


「最初から使える加護はこれだけ。後は、アナタがワタシたちとの絆を深めることで使えるレガリア。これは、さっきもう使ったわね」

「え? それって……」

「ボクのイフリータブレイドだよ」


 リータが、俺のすぐ隣にお尻を下ろして、肩を寄せてきた。


 粗末な奴隷服の俺も、踊り子の衣装のリータも、肩を露出しているので、互いの肌が触れ合って気持ちいい。


 そのことにドキドキしていると、リータは嬉しそうに目元を緩めた。


 城で見せた凄味は、どこへ消えたのか。


「あのねハニー。レガリアは、精霊が本気で勇者を助けたいって、この人のためにありたいって願った時にしか使えないの。ボクはハニーのこと好きだから、すぐに使えたってわけ。だからみんなとイチャラブすれば、六種類のレガリアを使えるよ」

「イ、 イチャラブ?」

「だから、早くボクらと仲良くなってね、ハニー」


 イチャラブとか、ハニーとか、恥ずかしいセリフがいっぱい出てきて、口元が緩んでしまう。


 こんなに幸せでいいのだろうか?


「あの、なんでそんなに俺のこと好きになってくれるの? 初めて会ったばかりなのに」

「ん? そんなの、キミがボクのことを愛してくれたからに決まっているじゃないか。初対面からボクのこと熱~く見つめていた人に言われたくないなぁ」


 にやにやしながらそんなことを言われて、俺は唇が硬くなってしまう。


「それは……だって……リータは綺麗だし。でも、俺はヴェスターみたいなイケメンじゃないし、強くもないし、学もないし、奴隷だし……」


 自分で言っていて空しくなって、声に力がなくなっていく。


「物心ついた時から、奴隷って理由で使用人の人たちからいじめられて、同じ奴隷同士でも一番年下だからっていじめられて……だから、急に好きって言われると嬉しいけど、ちょっと戸惑うんだよ……」


 それが、俺の正直な気持ちだった。


 すると、リータは優しく、俺の手を取って、穏やかな声をかけてくれた。


「ハニー……」


 顔を上げると、彼女は凄味を含んだ顔でも、小悪魔的な顔でもなく、慈愛に満ちた、聖母像のような表情で、俺を見つめていた。


「ボクたちは、そんなのどうでもいいんだよ。ボクら精霊にとって大事なのは魂の清らかさ。身分も学歴も腕っぷしも、ボクらからすれば幼稚で低次元な問題だよ。欲に弱い人間で、これだけ酷い世の中で、なお魂の清らかさを保っている。その黄金の精神性こそがもっとも大事で、何ものにも代えがたい魅力なんだ。ここにいる、みんなにとってね」


 リータが視線でみんなのことを示すと、みんな、俺に好意的な表情だった。一人、ヴァルキリーだけ、ちょっと不満そうだったけど。


「でも、ハニーの気持ちもわかるよ。人生観は、そう簡単に変わらないもん。だからねハニー。これからボクらが、キミの人生観を変えてあげる♪ だってボクらは、キミの家族でキミを幸せにするためにいるんだから♪」


 とびきりの笑顔に、俺の胸は激しく揺さぶられた。


 もしかしたら、これが初恋なのだろうか。


 そんな風に思っていると、リリスがくすりと笑った。

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