第30話 想いと決意

「一体僕はどうしたんだ?話が終わってもいないのに席を立つなんて。普段の僕ならあり得ない行動だ。」




アーカムは自分自身の行動に苛立ちながら帰路に着く。


一刻も早く父であるケインズに今回の事件を報告しなくてはならない。




「「「お帰りなさいませ、アーカム様」」」


「父上は何処に?」


「ご主人様は只今中庭にいらっしゃいます。」


「わかった、直ぐに向かうとする。」




ケインズがいる中庭に足早に駆ける。




「父上、只今帰りました。」


「む?アーカムよ、リリカ様はどうした?」


「その事でお話があります。人払いをしていただいても宜しいでしょうか?」


「何やら重大な話の様だな。良かろう、執務室で詳しく話せ。」




さて、父上とこれからの事を相談せねば。


時間は待ってくれない。行動が遅くなればなるほど事態は最悪な方向に進んでしまう。




「そこに座りなさい。」




ケインズに促されソファーに座るアーカム。


即座にセバスが二人の紅茶をテーブルに置く。




「セバス、これから一切この部屋に人を近づけてはならない。」


「畏まりました。皆に伝えます。」




セバスが深く頭を下げ執務室から出ていく。




「さて、これで大丈夫だ。アーカムよ、リリカ様の屋敷で何があった?」


「はい、包み隠さず起こった事をお話しします。先立って現実味の無い内容ですが全て現実に起こりえた事なので何も言わずに聞いてください。」




そうして、僕は全てを父上に話した。


まだリリカ様とクライス君が会話をしていたのに席を立った事まで包み隠さず。確実に父上には怒られるが仕方が無いことだ。




「何という事だ・・・。それで、お前は先に帰ってきてしまったのか。」


「はい・・・。」


「馬鹿者がーーー!!」




ビクッ!!!




覚悟していても身体は反応してしまうもんだな。




「中途半端な所で席を立ち帰路に着くとはそれでも私の息子か!!!リリカ様と今後の話をせねばならぬのに情報不足では時間が掛かるのが解らないわけではあるまい!!!」


「申し訳ありません。」




立ち上がり、直ぐ頭を下げる。


確かに、先程までの自分は何かがおかしかった。


しかし、幾ら考えても答えは出てこない。




「過ぎたことは仕方が無い。しかし、罰は受けてもらうぞ。」


「甘んじてお受けいたします。」


「良かろう、罰はリリカ様との話し合いが終わり次第決める事にする。それまでは自室で頭を冷やし今回の行動を顧みなさい。」


「はい、それでは失礼いたします。」


「あと、お前も報告の書類を作りなさい。私が聞いた話と直接見たのとでは書類に齟齬が生じる可能性がある。少しでも情報に統一を持たせリリカ様との話し合いをしたい。勿論その時はお前も参加せよ。」




父上の言葉に従い、自室に戻り机に座り報告書を書き出す。


報告書自体は書きなれているはずが、ある一部分で筆を止めてしまう。


その一部分とは・・・・。




「そうか・・・。私はまだ未練があったというのか・・・。」




静かに呟く。


筆を止める場面、それはクライスがエリスに対する想いを伝える部分だ。


エリスもクライスの気持ちに答える気があるのが目に見えていたからだ。


アーカムはエリスに求婚を断られた理由がクライスにあると確信していた。


エリスの心が自分に向かない、そう判断して過去の物として扱っていたがどうやら未練があり今回の事で改めて自分の想いを知ってしまった。




「諦めがついたと思っていたのだが・・・これは幾分ダメージが大きいな・・・。」




筆を置き大きく背もたれに身体を預け天井を仰ぎ見る。


瞳からは涙が流れ、この時初めてアーカムは自身の失恋を確認してしまった。




「ははは・・・。いかんな、少し休むとするか。」




重たい身体をベッドに預け目を瞑る。


考えるのはクライスとエリスの事。これから、二人は望まぬ貴族の抗争に巻き込まれる。


気持ちを新たに切り替え、二人の為に何ができるのかを考えていく。


エリスへの想いを断ち切るためには時間が掛かる。


しかし、それ以上に二人の安全を考える事が大事である。


二人は紛れもなくアーカムが守るべきウースの領民である。


貴族の責務は民に安然をもたらす事。


父ケインズよりしっかりと受け継いでいる想いに恥じぬ様に自身の思考を加速させていくアーカムであった。

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