第20話 答え

リリカの突然の勧誘に困惑する、二人の長くも短い思案の時間。


その行く末を見守るアーカム。


エリスは涙目で俯いてしまっている。


リリカは、紅茶を嗜み答えを待っている。




この状況は不味いよね・・・・。


でも、答えをどうするかだけど・・。やっぱり勝手には決められないよな。




「リリカ様、申し訳ありませんがここで答えるのは難しいです。」


「そうですか。ではどうしますか?」


「エリスと二人で両親に話をしたいと思います。リリカ様が僕らの事を考えてくれていると伝えたいですから。」


「わかりました。答えを急がせて申し訳ありませんでしたね。あなた達二人は私から見て宝石の原石なので気持ちが焦ってしまったようですね。」




宝石の原石?どうゆうことだ。


意味が分からない顔をしているとリリカ様が答えてくれた。




「あなた達二人は才能があると見たのですよ。クライス君はその年で体捌きがしっかりしている様に見えます。おそらく、余程の修練を積まないとその年ではありえません。また、エリスさんは先程も言ったように潜在魔力が計り知れません。私の予想ですが、潜在魔力は私に匹敵する可能性があります。詳しく調べてみないと判りませんが、貴族の子息や子女ぐらいしか見たことはありません。」




リリカの再びの評価に驚き固まる。


改めて言われると一国の王女に称賛されることは物凄い名誉である。


さらに、魔法大国マルスで自他共に天才と謳われるリリカに褒められれば仕方が無い事である。




「では、今回はここまでとしましょうか?突然の事で驚かれたと思いますが、ご両親とよく話し合って決めてください。私はまだ暫くはこの街に滞在しますので、今日みたいに後日使いを向かわせますので。アーカムもケインズに今日の事を伝えておいてくださいね。」


「畏まりました。では、今日はこれでお開きにしますか?」


「いいえ、難しいお話は終わりということですよ。後は、口直しにお茶やお話を楽しみましょ。」




リリカはそういって笑顔を皆に向ける。


その笑顔と雰囲気が先程より優しくなったことにエリスとクライスは安堵する。




「さて、残っておった『ラルフ』のケーキを食べるかの。そういえば、二人ともよく『ラルフ』のケーキが持ち帰れたの?あそこは持ち帰りはしておらなかったと思うが?」


「え、リリカ様・・・・。その口調が?」


「うん?ああ、口調が変わったのがおかしいか?あれは真面目な話をする時様じゃ。いつもあんな話し方はせんぞ。肩が凝って仕方が無いし、そもそもわらわの雰囲気とは違う気がしてのーーー。」




ケラケラ笑いながらリリカは答える。


そのギャップに二人は苦笑いしかなかった。




リリカ様のあの雰囲気は王族として申し分なかった。確かに、ずっとあの話し方は肩が凝りそうだし少し近寄りがたいから嫌だな。




「で?どうして『ラルフ』のケーキがあるんじゃ?」


「あ、それは僕の父さんが今日用意しました。どうやら、『ラルフ』の人が父さんの弟弟子みたいで無理を言ったみたいで。」


「な、な・ん・じゃと・・・・・・・・・。」




リリカが絶句する。おそらく今日一番の驚きではないだろうか。




「クライスよ・・・。では、お主の父親は菓子にも精通しておるのか?」


「どうなんでしょう?僕も今日の朝に聞いてビックリしましたから。」


「あ!!!」


「どうしたのじゃ、エリスよ?」


「いえ、そういえばおじ様はお菓子もよく作ってくれてましたよ。とても美味しかったですよ。」


「何それ?僕にはお菓子や作ってくれたこと無いけど。」


「クライスは食べないでしょ?お菓子より肉が良いんじゃないの?」


「う・・・・。」


「ほう・・・。では、クライスの父親は菓子を作れると?クライス!!!先程の話は無しじゃ。今すぐ両親と共に王都に引っ越さないか?」


「リリカ様、いきなり何を言いますか?菓子に目が眩んで先程の言葉は何処にいったんですか?」


「先程とは何のことじゃ、アーカムよ?」


「ご自分で仰ったではないですか?『無理やりは連れて行きません。それは、私の沽券に関わる問題です。』と・・・・。」


「そんな事言ったかの・・・?」




エリスが笑いながらアーカムの言葉に答える。


アーカムもリリカが冗談で言っているのが解っているので気軽に進言出来ている。




リリカ様・・・・。雰囲気が違い過ぎる。さっきのを見た後だと違和感しかない。というか、両親ともに王都に来いって俺は菓子に負けたのか?




クライスは内心で意味が分からないことを呟く。


隣ではエリスが声を抑えて笑いに堪えている。しかし、体が小刻みに震えているので笑っているのは一目瞭然だ。




「ふふふ、ようやく落ち着いたか?」




リリカが二人に問いかける。


二人は、先程の勧誘の後緊張が続いていた。それを見かねたリリカが場を和ますためにあえて冗談を交えて会話をしたのだった。




「さて、そろそろ場所を移動するとしようかの。」


「「「移動ですか?」」」




三人の声が揃う。


クライスとエリスだけならまだしも、アーカムも聞かされていなかったようだ。




「どこに向かわれるのですか?」




アーカムが代表して答える。




「わらわの研究室じゃよ。今日は茶会とは並行してクライスにわらわの作った魔道具を見せてやろうと思ったのじゃよ。」


「魔道具を見せてくれるのですか?」




クライスの目が光り輝く。


王女の作る最先端の魔道具。冒険者志望のクライスがときめかない筈がない。




うおーーーーー。どんな魔道具を見せてくれるんだ。すげーーー気になる。




「では、ついてくるがよい。普段は入れぬわらわの研究室にご案内じゃ。」




リリカが立ち上がり、三人を誘導する。


このリリカの行動がクライスの未来を大きく左右するとは誰が想像できようか。


この事件が四人の運命を大きく曲げることになる。

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