第19話 勧誘
「よし、これで皆が揃ったな。改めて、茶会を開始するとしようか。」
リリカの宣言により、茶会が開始される。
開始の宣言をした瞬間にエリスが手を挙げる。
「リリカ様、お茶会って何をするんですか?物語に出てくるようにお茶を飲んで話をするのでしょうか?」
もっともな意見であった。貴族でも無い二人は茶会などしたことが無いのでどうするのかが分からないでいた。
エリスの言う通りだよな。一体どうするんだ?
「今言ったような物語の茶会に似ていると言えば似ておるぞ。まぁ、もう少し貴族らしい話し合いの場となるがの。」
リリカ様は苦笑いしながら答えてくれたが、貴族らしいとはどういう場面なんだ?
「硬くならず、二人の話を聞かせてくれぬか?わらわは王族故に民の暮らしというのを詳しくないのでな。それに、普段の生活の話ならウース領の領民の生活が垣間見えるというものじゃ。」
「そう言うことなら・・・。私たちの普段の生活の話などを少しばかり。」
こうして、僕達二人の生活を中心とした話で茶会が進んでいった。
時折、エリスがリリカに私生活の一部で気になる所は根掘り葉掘り聞かれ恥ずかしそうにしていた。
「成程、ウースの民は幸せな生活を送れているようじゃの。流石じゃな、この話を聞けただけでもケインズの統治が上手くいっておる証拠じゃな。そう思わんかアーカムよ。」
「お褒め戴き感謝いたします。父ケインズに代わりお礼申し上げます。」
リリカ様は満足してくれたみたいだな。これで茶会は終わりか?
会話がひと段落したのでこれで終わりかと思われた時にリリカがクライスに改めて向き直る。
え、どうしたんだ?
「クライスよ。これから少しばかり真剣な話をお主にするぞ。」
「は、はい。一体どういった話でしょうか?」
リリカの纏っている雰囲気が変わる。
今までの親しみやすい雰囲気ではなく、有無を言わさぬ威圧感がある。
それこそ、王族だけが纏う覇気であった。
「クライス君、私の下に来る気はないですか?あなたなら必ず大成できる。私の下でその才能を昇華させてみませんか?」
「え、それって。僕にこの街から離れろと言っているのですか?」
「簡単に言えばそうです。私と共に王都に戻り、騎士学校に進んでその才能を伸ばしてもらい、将来は騎士として・・・。いや、違いますね。近衛騎士として私に使える気はありませんか?」
リリカからの突然の勧誘。自身の才能に絶対の可能性を見てくれており、共に王都に行こうと。
それは、クライスに思考を停止させるほどの衝撃だった。
しかし、それを良しとしない人物もいる。もちろん、エリスだ。
「待ってください、リリカ様。クライスを王都に連れて行くなんて。」
「無理やりは連れて行きません。それは、私の沽券に関わる問題です。しかし、クライス君の才能は今から鍛えたほうが良い。自己流で鍛えるより、師の下で研鑽すれば将来は近衛騎士になれると私は思っております。」
近衛騎士は王族を守る為に多くの騎士から選ばれたエリート中のエリート。
その一人一人が一騎当千の実力者であるのは間違いない。
俺が・・・将来の近衛騎士・・・・?リリカ様は何を言っているんだ?
クライスはまだ混乱していた。
自分の才能は将来近衛騎士になれる。王族であるリリカに言われても実感がわかず茫然と立ち尽くすのみ。
その間も、エリスとリリカの話し合いは続く。
「何も、クライス君だけではありません。あなたも王都に誘うつもりです。」
「わ、私もですか?」
「ええ。あなたも十分その資格があります。」
「しかし、私は剣など握ったことがありませんが。」
「違います。あなたから感じられる潜在魔力は計り知れません。その為、あなたにも王都の魔法学院に通ってもらうつもりです。」
「私が、魔法学院に・・・?」
「そうです。魔法学院では私の付き人という形で傍にいてもらうつもりです。」
エリスも、自分に才能がある。そう言われて思考が停止してしまう。
エリスとしてはクライスと離れ離れにならなくて済むのだが、話が大きすぎてどうして良いか分からず、緊張と混乱で涙目になってしまう。
「リリカ様、その話は今返答しなければなりませんか?」
混乱から立ち直ったクライスがリリスに問う。
「できればこの場での返答が望ましいですが、ご家族の事もあります。ましてや、あなたは冒険者になるという夢もあります。ですので、無理強いは致しません。」
「そうですか・・・・。」
クライスはリリカの答えに息を大きく吐き、深く椅子にもたれてしまう。
エリスを見ると涙目で口を開け閉めしている。
相当混乱してるな。俺も人の事は言えないか・・・。
冒険者の夢はある・・・・。しかし、リリカ様の言っていることも分かる。誰かに師事して貰いたい気持ちもある。それに、これだけ期待してくれているんだ。断るのはダメだろう。
「焦っては駄目ですよ。この場の空気に流されず、自分の気持ちに正直になって良いのです。私はあなたがどんな答えをだそうとそれを尊重します。」
リリカの普段とは違う口調と雰囲気。
クライスでも判断できる、王族としてのリリカが諭すように言葉を紡ぐ。
アーカムは、静かに二人の行く末を見守るかのように沈黙を保っている。
そして、長くも短い思案の時間が終わりを迎える。
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