第21話 暴走
席を立ち三人を案内するリリカ。
中庭に入ってきた時とは別のドアを開けると四角い造りの建物が目に入る。
「あそこがわらわの研究室じゃ。奇妙な造りじゃろ?造りには拘らんと言ったらこんな形になってしまった。」
ハハハと笑うリリカ。
三人は返答に困りお互いの顔を見るばかりであった。
「素直な感想で良いぞ?変なのはわらわが認めておるんじゃからな。」
「では、私から。単純な造りですが研究室が一番の目的で外観は気にしないでよい。という事がハッキリ感じられます。」
「私は真っ白い壁が綺麗なのと四角い建物も珍しくていいと思います。」
「僕は・・・・。よくわかりません。作った人がどんな気持ちで作ったのか聞きたいです。」
三人の思い思いの感想。
リリカはその感想を聞き満足したように頷く。
「若干の世事に聞こえなくは無いがそんなもんじゃろ。では、中に入るとするかの。」
リリカが建物のドアを開けると中から独特の匂いが漂ってくる。
「え、何ですかこの匂いは?」
「確かに、甘いような匂いの中に何とも言えない匂いが・・・・。」
「僕はそんなに感じないけど?」
純粋な狼獣人のアーカムは顔を少し顰める。
エリスは独特な匂いに敏感に反応する。
クライスは全く気にしていなかった。
「おっと、いかんいかん。ちょっと待っておれ。直ぐにどうにかしよう。」
リリカがドアを閉め一人中に入る。そして中からガサゴソと音がしたと思ったら直ぐにドアが開けられた。
「すまんかったの、昨日の研究の副産物じゃ。身体には害は無いから安心せい。」
苦笑いを浮かべながらリリカが顔を出す。再びドアが開けられると匂いが無くなったのか二人の顔が下に戻る。
俺だけ感じなかったぞ。どうしてだ?
「今のは何だったのですか?獣人種である自分にはかなり厳しかったのですが?リリカ様は平気なんですか?」
「わらわは慣れた。研究をしていれば匂いなど気にしてはいかんからの。因みに、今のは新作の香水を作っておったんじゃよ。」
「新作の香水ですか?リリカ様は香水も作られるんですか?」
香水と言葉にエリスが敏感に反応する。
目を輝かせてリリカに問い詰める。
「二人の姉上から頼まれてのーー。以前に王都の研究室近くを偶然通り掛かった時に香った香りが気に入ったらしく作れとうるさくての。わらわは香りを気にせんからその香りを覚えておらんのじゃ。だから一から作っては姉上に確認するという面倒な事になっておるんじゃよ。」
はぁーーーー、と溜息をつきながら説明するリリカ。余程面倒なのか、しかめっ面顔になっている。
成程、香水か。俺も匂いを気にしないから感じなかったんだな。
一人納得するクライス。しかし、それをリリカが追及してくる。
「クライスは何も感じなかったようじゃな。いかんぞ、それでは。匂いには敏感でないと。冒険をするなら匂いに敏感でないと。まぁわらわが言えた立場では無いがの。」
リリカが素晴らしく良い笑顔でクライスに苦言を言う。
それに気づいたクライスはバツが悪い顔をする。
「さて、何時までも入り口におらず中に入るが良い。」
リリカが手招きして入室を促す。
三人は順番に研究室に入ってそれぞれの感想を言う。
「これは、凄いですね。魔術学院でもお眼に掛かれない機材がありますけど。というか、貴重な素材が適当に置かれているんですが。」
「うわー、研究室ってこうなっているんですね。もう少し暗いイメージでした。」
「凄い数の魔石と魔道具が置いてある。よくどれがどれか分かりますね?」
リリカの研究室は一言でいえば物で溢れかえっていた。
様々な計測機器や保管箱、所狭しと置かれている素材と魔石と魔道具。空いているスペースは飼料や観測結果を置かれているのか何処に何があるのか判らない状態だ。
リリカには何処に何が置かれているかが分かるらしく問題ではないようだ。
「少し、散らかってが問題は無いと思うぞ。好き勝手に触らなければ問題ない物ばかりじゃ。」
「「そうなんですか?」」
クライスとエリスの声が重なる。
「そうじゃよ。流石に王都の研究室以外には貴重な物や危険な物は置いておかんぞ。わらわが居る間は良いがそれ以外は管理をするものがおらんからの。そもそも、他人に管理は任せられん。」
リリカは胸を張って言い切る。
そして、リリカの案内の下研究室を見て行く。どれも見たことが無い物ばかり。気になった物はリリカが説明してくれ建物を巡回する。
リリカの説明で建物が三つも連なっている理由も判明した。
「入り口から入った一つ目の建物は主に研究メインじゃ。次の建物は素材置き場で一番奥は実験施設じゃ。一番奥だけ見た目は同じじゃが造りは一番頑丈になっておる。今は実験するものが無いから使っておらんがの。」
「そういえば、リリカ様はどうしてウースにいるんですか?もしかして三日市が目的でしたか?」
クライスの質問にリリカが大きく頷き答える。
「そうじゃ。王都まで『流れ星』の三日市が来るのを我慢できんでの、お忍びと言う事じゃ。おかげで良い物が沢山買えたのじゃ。特に奥にある物が今回の一番の目玉じゃ、ついてくるとよい。」
リリカは三日市の成果に満足しており自慢の一品を見せるために奥へと歩き出す。
それに三人はついていく。どんどん奥に進み四人は実験施設の前まで足を運んだ。
この中に置いてあるのじゃ。少し大きいから場所が無くて実験施設に置いてあるんじゃよ。
実験施設のドアが開けられると何もない空間にポツンと少し大きめのテーブルと布が被せられた箱らしき物が置かれていた。
「あれが今回の一番の目玉じゃ、見ておれよ。」
リリカがテーブルに近づくと布をとる。そこから現れたのはガラスケースであり、その中に白と黄金色の光を発する二つの物体が佇んでいた。
「どうじゃ?これが何か判るか?」
「リリカ様、それはもしや・・・・。」
「綺麗・・・・。なんだろうあれ?」
「不思議な感じがするね。」
アーカムは心当たりがあるらしく驚愕した顔でガラスケースを眺める。
エリスは素直に『綺麗』と感想を述べる。
なんだろうあれ?見たこと無いけど、生き物なのか・・・・?何だろうモヤモヤした感じがする。
「なんじゃ、判らんか?なら聞いて驚け!!これは光と雷の下級精霊じゃ!!!」
「「精霊!!!!」」
「やはりそうでしたか。」
クライスとエリスは驚き、アーカムは解っていたかのように呟く。
「なんじゃ?アーカムは判っておったか。つまらんのーー。」
「リリカ様、三日市で精霊が取り扱われていたのは耳に入っております。誰が購入したかは分かりませんでしたがリリカ様なら納得です。」
精霊はその存在自体が大変貴重である。
自然界の魔力が集まり視認できるまで濃縮された存在である。
下級精霊は大人しく、上級精霊は常時に荒ぶっている。
しかし、上級精霊は人が立ち入れない場所にいることが多く、また存在は確認されているが見た者はこの数十年は確認されていない。
下級精霊は比較的発見される。自然界の魔力が集まりやすい場所に存在しているので何年かに一度は発見される。
精霊に自我があるかどうかは長年研究がなされているがまだ判明していない。
基本その場に存在しているだけで害にはならない。上級精霊も場所が場所だけに害にはならない。
魔力が濃縮された存在なので天然一級品の素材である。その為、市場にでれば高額で取引される。
「かなり値がはったぞ!!!わらわの研究費用の半年分は消えたぞ。」
リリカが恐ろしいことを笑いながら告げる。
リリカは国内外共に有名な天才研究者だ。毎月用意されてる研究費用が少ないはずが無い。その研究費用の半年分・・・・。考えるのも嫌になる額である。
アーカムは顔を引き攣らせ、クライスとエリスは分かっていなかったが大変貴重なのは理解できたようだ。
「リリカ様、近くで見てもいいですか?」
クライスがリリカに尋ねる。
「構わんぞ。大人しい存在じゃし、精霊など滅多に見えぬからよく見るとよいぞ。しかし、ケースに触るのは無しじゃ。」
リリカがテーブルを離れ注意事項を告げる。
それと入れ替わるようにクライスがテーブルに近づいていく。
なんだろう?テーブルに近づくにつれてモヤモヤが大きくなる。どうしたんだ?
自分の事なのに訳が解らない。
クライスは顔を傾けながらテーブルの前に立つ。
その時、ガラスケースの中で佇んでいた二つの精霊が大きく輝きだす。
突然の発光に驚く四人。
「な!なんじゃ一体?」
「クライス?」
「クライス君離れるんだ。」
テーブルから離れていた三人が発光に反応する。
ま、眩しい。一体なんだ?
パリ――――ン
クライスが顔を右手で隠し光を遮ったその時、ガラスケースが大きな音を立て割れる。
割れたガラスケースから二つの精霊が飛び出しクライスに纏わりつく。
「ぐぁ。あああああああああああああ。」
纏わりつかれたクライスから悲痛な叫びが響き渡る。
精霊が出す、数多の光と雷に身体を蹂躙されていく。
その光景を見たエリスが髪を振り乱しながら叫ぶ。
「クライスーーーーー。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます