第16話 注目と馬車

『踊る黒猫亭』の前はちょっとした人混みができていた。


理由は簡単だ。二人の子供、クライスとエリスが祝福などでも無いのに正装して店の前に並んで立っているからだ。


理由を知らない人は周りの人に何があったのかを聞いている。


それでも、理由を知っているのは限られた人なので、人が離れることなく増えてきている。




あーー、恥ずかしい。どうして皆集まってくるんだよ。エリスはどうだ?




クライスは、皆に見られて恥ずかしくなっていた。口元をひくひくさせながらエリスの方を横目で見る。




「・・・・・・・。」


「・・・・・・・。」


「・・・・・・・。」




エリスは顔を赤くしてプルプル震えていた。




やっぱり、エリスも恥かしいんだ。


早く、迎えに来ないかな。もう限界なんだけど。




クライスとエリスが羞恥心に耐えながら迎えを待っていたが、いよいよ限界を迎える。




「もーーーーー!!!ジロジロ見ないでよ。恥ずかしいでしょ!!!!」




エリスの悲痛な叫び。


クライスも結構限界だったが、先にエリスが爆発した。


気持ちも分からなくないクライスは、苦笑いしながらエリスを宥めることにする。




「まあまあ、あと少しの我慢だと思うよ。」


「それでも、恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ。珍しいのは分かるけどいい加減にしてほしいよ。」




エリス、かなり怒ってるなーー。


でも、これだけ注目されたら嫌だよなー。




クライスも、口には出さないが不満が溜まっていたのは間違いない。


エリスの気持ちが爆発したからなのか、少しは人混みが解消された。


そして、待つこと数分。人混みを掻き分けて豪華な馬車が二人の前に現れた。


二頭の立派な白馬にひかれた馬車。馬車には大きく本の上に杖と剣が交差した王家の紋章が描かれていた。




「王家の紋章だ!!!!」


「二人とどんな関係だ?」


「どうなってんだ?」




集まった人々が騒ぎ出す。


しかし、王家の紋章の入った馬車が迎えに来ているので仕方が無い。


馬車の御者が降りてきて二人の前に立つと頭を下げる。




「クライス様とエリス様でお間違えないですか?」


「「は、はい。」」


「お待たせしました。本日ご案内させていただきます、執事のアルバートとございます。」


「「よろしくお願いします。」」


「では、馬車にお乗りください。直ぐに出発いたします。」




クライスとエリスはアルバートが開けてくれた馬車に乗り込んだ。




「では、ご子息とご息女をリリカ様の御屋敷までご案内させていただきます。ご両親の皆様は安心してお帰りをお待ちください。」


「「「「こちらこそ、よろしくお願いします。」」」」




アルバートは。クライスとエリスの両親に挨拶を済ませると御者台に乗り込み白馬を操る。


ゆっくりと馬車が動き出し、人混みを掻き分けて貴族区に向かっていく。


集まった人々は二人の両親と同じように馬車を茫然と眺める。


そして、少しの時間が経った後に事情の知らない人々から質問攻めにされ少しの間拘束されることになる。




「この馬車の座り心地凄いね。全然、お尻が痛くならないよ。」


「揺れも少ないよね。こんな豪華な馬車で迎えに来てくれるなんてビックリしたよね。」


「本当にね。私達もかなり注目されてたけど、この馬車がきたら皆馬車に目が言ってたもんねーーー。」




二人は、やっと落ち着くことが出来た。


これから、リリカが待っている屋敷まで少しばかりの馬車の旅。


二人は、暫しの間馬車から見える風景を楽しむ事にして気持ちを落ち着かせるのであった。

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