第15話 正装

リリカからの招待状が届いた日から準備に奔放する。


貴族、ましてや王族が主催するお茶会である。


幾ら、リリカから『服装などは気にしなくても良い』と言われても、平民である二人はお茶会に来ていく服を持っていない。


そこで、二人にとって一番の勝負服?になる服を着ることになる。


この国では、10歳になると教会からの祝福が受けられる。この祝福は身分関係なく受けられる。


流石に貴族は個別に教会から祝福を受けるが、平民は新年の初めに纏めて祝福を受ける形になっている。


今年10歳になる二人は、新年の初めに教会からの祝福を受けている。


その時の服装は、一生に一度の祝福なので貴族も平民も関係なく一張羅を仕立てる。


その服をリリカのお茶会に来て行く事にしたのだ。




「よし!!!これで大丈夫ね。あんたは裏庭で木剣ばかり振ってるから、サイズの心配があったけどまだ大丈夫みたいね。」


「いや、結構きついけど。これ本当に大丈夫か。




クライスの服は、黒のズボンに白のシャツ、首元は淡い青のネクタイというシンプルなデザインだ。


ネアはまだ大丈夫と言うが、傍から見てもギリギリな感じである。




『はーーー、本当に大丈夫かな。結構きついからボタン取れたりしないかな。というか、動きずらい。』


「何?何か言いたそうにしてるけど。」


「な、何でも無いよ。そろそろ時間でしょ。エリスを迎えに行ってくるよ。」


「そうしなさい。迎えが来てくれるとは言え、執事さんを待たせるのは不味いから。」




クライスが何か考えているなど、ネアにはお見通しである。


時間とエリスの迎えを言い訳に、クライスはそそくさと部屋を出ていく。


二階からクライスが一張羅で降りてくる。


一階の食堂に居た近所のおじさんや冒険者達はそんなクライスを見てヤジを飛ばす。




「どうしたクライス、綺麗な服なんて着て?」


「とうとう、エリスちゃんを嫁に貰うのか?」


「あら、そうなのね。クライス君、エリスちゃんを泣かしちゃ駄目よ。」


「お、やっとか!目出度いなー。俺にもその幸せを恵んでくれや!!」


「お前にはまだ早いよ。もう少しいっちょ前に稼げるようになれや。」


「そりゃ言えてる。」


「くそーーーーー、うるせさーーーーい。確かに俺はまだまだだよ。畜生ーーーーーー。」


「「「ははははははははは。」」」




昼前の食堂にも関わらず、多くの人々で溢れかえるのが『踊る黒猫亭』だ。


料理が安くて美味い。駆け出しの冒険者の間で評判が広がっているので、昔からの常連から新規の客と多くの冒険者が入り乱れる。


小さい頃から食堂で手伝いをしているクライス。冒険者に憧れているので彼等からしたら弟分の様な感じである。


クライスをヤジで揶揄うも、皆は暖かい目で見ている。


勿論、今日第3王女のリリカによって茶会に呼ばれているなど周知の事実である。


だからこそ、ヤジを飛ばさずに居られない。


冒険者と言う命のやり取りをしている彼等。日常の心休まる風景や何気ない交流は必要不可欠なのだ。




「なんだよ、皆して揶揄いやがって!!!」


「そんな、怒るなよクライス。そんな服を着てる理由はみんな知ってるから。」


「知ってて揶揄ってたのかよ!!!酷いぞ。」


「ははは、悪かったな。お詫びと言っちゃなんだが、今度剣の稽古つけてやるよ。勿論、親父さんの許可が出たらだぞ。」


「な、本当に?絶対に父さんから許してもらう。絶対だよ?」


「約束だ!ほら、エリスちゃんを迎えに行くんだろ?行ってこい。」


「絶対だよ。忘れないでよ。」




揶揄われて顔を真っ赤にして怒っていたクライス。しかし、常連の冒険者の稽古を見てやるという約束で上機嫌になり笑顔でエリスを迎えに行く事にする。




「こんにちは、おじさん。エリスは部屋に居ますか?」


「おーーー、クライス君。格好いいじゃないか。エリスならリサと一緒に準備してるよ。」


「じゃ、部屋に行ってみますね。」




バースに挨拶した後、クライスはエリスの部屋である三階まで駆け上がる。


丁度、着替えが終わったのかリサに連れられてエリスが部屋から出てくる。




「可愛い・・・・。」




クライスの真剣な感想。


エリスの服装は淡い水色で光加減によっては銀色に見える生地のドレスであった。ドレスの裾と袖口にフリルの付いた女の子の好きそうなドレスである。


新年の祝福時は上からコートを着ていた。教会の祝福は個室で家族別に行う。


故に、クライスはエリスのドレス姿を初めて見たのである。


部屋から出てきたエリスを真剣に見つめるクライス。


その視線に気づいたエリスは、恥ずかしそうにクライスに感想を尋ねる。




「ど、どうかな?」


「え・・・・、あ。か、可愛いよエリス。」


「そ、そう。ありがとう。」


「あらあら、クライス君はエリスのドレス姿に見惚れちゃたのね。母親の私が言うのもなんだけど、エリス可愛いでしょ?」


「はい。とても、可愛いです・・・・。」




リサの質問にクライスは顔を赤らめて小さく答える。


三日市の時もそうだが、普段とは違う雰囲気を醸し出すエリス。


普段の服装とかけ離れている為、見惚れてしまうのは仕方ない。


エリスはただでさえ可愛い容姿をしている。


鮮やかな銀髪で緑と青のオッドアイ。エルフ種と人間種のハーフでエルフ種よりの容姿をしているので容姿端麗だ。


もう少し大人になれば、引く手数多の女性になるだろう。


そんなエリスの気持ちを一身に受けているクライスを妬んでいるものは少なくない。




「さあさあ。そろそろ時間よ。二人とも、お迎えが来る前に玄関で待ってましょ。」




リサの言葉で正気に戻る二人。リリカからの迎えが来るまであと少し。


二人は、気を引き締めて玄関に向けて階段を下りていく。

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