第17話 屋敷到着

馬車に乗り暫くの時間が経った。


窓から見える景色が貴族区の建物ばかりになってきて数分。貴族区にありながら、異質な造りの建物が馬車の前に現れた。


建物自体は一見普通に見える。しかし、何故か一階には窓が無く、二階も玄関から見て左側は窓が無い。そして庭には人が一人入れる程度の縦長の建物と、見たことも無い植物が群生している。


さらに、本館の横には真っ白の壁に丸い窓が一つしかない四角い造りの建物が三つ程連なっている。


この異質な造りの建物こそがリリカ・フォン・マルスの住居兼研究施設になっている。




「お待たせしました。そろそろ到着いたします。」




御者台の後ろに取り付けられている出窓からアルバートが声を掛けてきた。




「なんか、凄い建物だね。」


「そうだね。どういった建物なんだろ?」




エリスが素直な感想を述べる。


その感想を聞き素直に答える。




しかし、想像してたお茶会の会場とはかけ離れてるな・・・・。


クライスは建物を眺めながら、聞いていた話とあまりにも違い過ぎることに困惑していた。




聞いていた話とは、もちろん冒険者からの話だ。


冒険者の話によると、貴族の建物は煌びやかであり庭には色とりどりの季節の花が咲き乱れており、貴族の淑女が数人でお茶を嗜んでいる。


そんな、夢の様な話であった。


しかし、これは冒険所の一方的な意見であり、全ての貴族がそんな生活を送っていない。


中には、そう言った貴族もいるが、魔法大国マルスではそんなのは稀である。


魔法大国マルスは、王族が率先して節約の生活を送っている。


節約してできた金は、研究所や教会に投資を行い国民の生活向上を目指し、更には、生活困窮者への施しなど国民に対しての投資を惜しみなく行っている。


それにより、大学や研究所は知識と実力があれば身分は関係が無いと言っていいし、国民一人一人の識字率の高さが際立っている。それにより、他国に比べて浮浪者が少ないのが誇りでもあった。




冒険者が貴族と直接取引を行うことは稀である。普通は代理人を立てており、貴族の屋敷に招かれるのは高ランクの冒険者ぐらいの者である。


つまり、クライスが聞いた話は冒険者の創造の話が殆どであった。


全てが創造の話では無い。


クライスが聞いた話は、冒険者が他の冒険者から酒の席で聞いた話であり、誇張された話でもあったのだ。




そんな、思いを抱いていたら馬車は門をくぐり屋敷の玄関に進む。


玄関には数人のメイドが立っており馬車の到着を待っているようだ。


そして、馬車が玄関横に止められる。




「「「「いらっしゃいませ。」」」」




馬車から降りると並んでいたメイドが一斉に頭を下げる。




ビックリしたーーーーー。




クライスは、降りて直ぐに息ピッタリのメイドさんの挨拶に内心驚いていた。


チラッと、エリスを見ると同じくビックリしていた様で顔が引きつっていた。




「お待ちしておりました。クライス様、エリス様。私は執事長のカールと申します。」


「初めまして、クライスです。」


「初めましてエリスです。」




執事長の挨拶に反射的に挨拶をする二人。


本来ならもう少し畏まった挨拶をしなければならないが、二人の年齢と貴族社会に生きていない二人には無理な話である。




「リリカ様とアーカム様の下にご案内させていただきますね。こちらへどうぞ。」




カールは優雅な仕草で二人を誘導する。


玄関に入って直ぐに二人の目には大きなホールと数々の肖像画と絵画が目に付いた。




「おーーーーー、凄い広い。」


「綺麗な絵が沢山・・・。」




二人の素直な感想が漏れる。




いや、こんな広間初めて見た。貴族の家ってすげーーーーー!!!!




クライスは初めて入る貴族の屋敷に感激していた。


それはエリスも同じで、キラキラした目で絵画を見ていた。


そんな二人を微笑みながらカールとメイド達は眺めていた。




カールの案内は続く。


玄関から入った後左側に進む。


窓の無い廊下を付きあたりまで歩くと、一つのドアの前に辿り着いた。


カールがそのドアを開くと中に入るように促す。




「どうぞ、お入りください。中庭でリリカ様とアーカム様がお待ちです。」




そのドアは中庭に続いていた様でドアを開けると外の光が入ってきて薄暗い窓のない廊下を照らす。


二人が中に足を踏み入れ、続いてカールが入ってきて引き続き、リリカの下に案内を始めるのだった

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