第13話 招待と思惑

「あーーーーー。美味しかった。『ラルフ』のパンケーキは何時食べても美味しいね。」


「確かに、美味しかったのじゃ。いつでも食べられるエリス達が羨ましいぞ。」


「王都には『ラルフ』がありませんからね。それでも、『ラルフ』に負けない甘味はあるのでは?」


「あるにはあるぞ。しかし、パンケーキならココが一番じゃな。」


「そうなんですか!!!でも、王都のスイーツも食べてみたいです。」


「何故、王都でこのパンケーキが食べれんのじゃ。」




リリカは『ラルフ』のパンケーキがかなり気に入ったらしく悔しそうに嘆く。


エリスは王都のスイーツが食べたいのか、物思いに耽る。


二人はパンケーキの美味しさの余韻に浸っていたが、アーカムが懐から時計を取り出し時間を確認する。




「リリカ様、そろそろ次に行きませんと、お時間が迫っております。」


「何!!!もうそんな時間なのか?むーーーー・・・・仕方ないのー。」


「ここの支払いは、僕がしますので。エリス嬢とクライス君の支払いは大丈夫だよ。」


「「えっ!!!!!」」


「アーカム様、宜しいのですか?」




突然のアーカムの申し出に二人は戸惑う。


それは当たり前だ。当然の如く、二人は自分の食べた物は支払う気があったからだ。




「ここの支払いぐらいは余裕だよ。大人しくご馳走されてくれないかな。」


「「ありがとうございます。」」


「ふふふ。男前じゃな、アーカムよ。」


「当然の行いですよ、リリカ様。これも貴族の務めです。」




アーカムはこれくらいは当たり前かの様に懐から金貨を取り出し従業員に渡す。




「釣りは取っといてくれ。突然の訪問にも関わらず良くしてくれたお礼だ。」


「ありがとうございます。アーカム様の気持ちは従業員一同に伝えておきます。」


「よしてくれ、恥ずかしいだけだ。しかし、支配人やシェフには美味しかったと伝えておいてくれ。」


「畏まりました。」




従業員は、深々と頭を下げた後部屋を退出する。


その後に四人は階段を下りて外に出る。




「さて、今日はこれでお別れじゃな。わらわとアーカムは他に行く所があるからの。」


「リリカ様、アーカム様。今日はありがとうございました。お話が出来ただけではなく、食事もご一緒出来て感激です。」




クライスが代表して二人に礼を述べる。


しかし、ここでリリカが予想外の事を口にする。




「二人とも、わらわは暫くこの街に滞在する予定じゃ。」


「「は、はい。」」


「そこで、後日お茶会を催すつもりじゃから来てくれんかの?もちろん、顔触れは今日の四人でじゃ。」


「「は、はい?」」


「おお、来てくれるか!確か、二人の家は『精霊の宿木』と『踊る黒猫亭』と言っておったな。後日使いを送るから確認してくれんか。」


「「え、え、え、え。」」


「それと、服装は気にせんで良いぞ。私的なお茶会じゃ。堅苦しいのは無しで行いたいからの。」




二人の反応を気にすることなくリリカは話を進める。


そして、要件を伝えると踵を返して歩き出す。




「では、またのーーー。会えるのを楽しみにしておるぞ。」




リリカは後ろ手に手を振りながら先に進む。


それを、アーカムは急いで追いかける。




「エリス嬢、クライス君、すまない。僕はこれで失礼する。お待ちください、リリカ様!!!」




茫然と立ち尽くす二人。ようやく、事の顛末を理解できて困惑する。




「リリカ様のお茶会?後日使いをよこす?何でそうなるの?」


「えーと、多分私たちがリリカ様に気に入られたってことなのかな?」


「多分・・・・。いや、そうじゃないと意味が解らないよ。」


「そ、そうだね。父様、母様になんて伝えよう?」


「そうだよね、僕も父さん、母さんに何て説明すればいいんだよ?『リリカ様のお茶会に誘われました』って信じないよね・・・・」


「私も、突然言われても信じれないよ。」




二人は、自分の両親にどう伝えるかで頭を抱える。


しかし、いくら考えてもどうしようも無い事に気付き、ありのままを伝えることに決める。




「はーーーー。帰ろうか。」


「そうだね、帰りましょ。最後の最後でビックリしたけどね。」




この後、二人が帰宅してお互いの両親に今日の顛末を伝えると、二人と同じように頭を抱えるのであった。






■■■■■






「リリカ様、あの二人をお茶会に誘うとはまたどうしてですか?」


「アーカムはあの二人を見てどう思った?」


「どう思ったとは?僕は、以前からの知り合いですがこれと言って突出したことを感じたことはありませんが。」




アーカムは素直な感想を述べる。そこに、過去エリスに振られたという事実は含まれなかった。




「成程、身近すぎる故の感想か。」


「申し訳ありませんが、質問の意図が読み切れません。あの二人に何を感じられましたか?」


「クライスとエリスの年齢はわらわやアーカムに近いのであろう?」


「はい。確か、クライス君はリリカ様と同い年、エリス嬢は一つ下だったと思います。」


「そこじゃよ。特にクライスには驚きじゃ。わらわと同い年で貴族でも無いのに強さが突出しておる。武であればそこらの貴族では歯が立つまい。」


「そこまでですか!!!では、エリス嬢も?」


「エリスの武はからっきしじゃの。しかし、感じられる潜在魔力が凄いぞ。ある程度目の肥えた貴族なら放ってはおかんだろうな。」


「それで、お茶会ですか。」


「そうじゃ、誰かに手を付けられる前に先手を打つ。あれは、宝石の原石に等しい。アーカムよ、ケインズには悪いが領民に手を出させてもらうぞ。悪いようにはせん。」


「畏まりました。セバスに先行して伝えさせますか?」


「いや、わらわが直接伝える。」


「出過ぎた真似を。」


「構わぬ。さて、忙しくなるぞ。三日市が終われば茶会の準備と手回しじゃ。」




リリカは良きものを見つけたと言わんばかりに口角が吊り上がり笑みを浮かべる。


第3王女自らが平民を傍に置こうとする。そこには、必ずと言っていい程の貴族からの横やりが入る。


その事には、頭を悩ませるが些細な事。国の今後の事を考えた行動なのだ。何とでも言いくるめられる。


リリカは、これからの騒動にどう区切りをつけるかを考えながら辺境伯邸に足を向けるのであった。

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