第12話 限定メニュー

「ほう、ほう、ほう。これが王都にも聞こえる『ラルフ』のパンケーキか。」


「きゃーーー。昨日のも良かったけど、今日のもまた美味しそう―。」


「お主、昨日も来ておったのか?因みに、昨日はどんな物だった?」


「昨日のは、パンケーキが三段に重ねられてて、色とりどりの果物やソースが掛けられてましたよ。」




本日の『ラルフ』の限定パンケーキは一枚の分厚いパンケーキと珍しい果物と三種類の生クリームが使われていた。おそらく、生クリームには果物を混ぜ込んでオリジナルの品物だろう。




「しかし、『ラルフ』に貴族様用の個室があったんですね。」


「『ラルフ』は王都にも名が聞こえる程有名じゃから、個室の一つは用意しておるじゃろ。」


「そうですね、僕達の様なお忍びで来店する、貴族や王族の為にも用意しておくのは当たり前だからね。」




今、クライス達は『ラルフ』の個室でデザートを食べている。


何故こうなったかと言うと・・・・。




『ラルフ』に来る30分前・・・。




「お主は、冒険者を目指しておるのか。成程、それで良い体格をしておるのか。」


「ありがとうございます。失礼ですが、リリカ様は他にどの様な魔道具を作られているのですか?」


「そんなに、畏まらなくても良いぞ。もっと親しげに話してくれて構わんぞ。えーーと、名前は何だったかの?」


「まだ名乗ってなくて失礼しました。自分はクライスと言います。街の食堂『踊る黒猫亭』の一人息子です。」


「クライスじゃな。覚えたぞ。そして、魔道具じゃな。身近なもので言えば街頭の灯りかのーー。今までのから2割は魔石の交換期限が伸びておるはずじゃぞ。」


「凄いですね、皆の生活に役立つ物を作っているんですね。冒険者が使う様なのは無いんですか?」


「冒険者か・・・。色々な物を改造したりしておるからな。魔力消費が極端に少なくて済む、火付けや飲み水を出す魔道具じゃな。」


「冒険者には助かる物ばかりですね。流石です!!!」


「もっと褒めて良いぞ。なっははははは。」




クライスとリリカの会話はまだまだ続きそうである。


流石に店の前で長話は良くないのでアーカムが止めに入る。




「リリカ様、流石にこの場での長話は控えたほうが・・・。」


「む、そうか。では、休憩も兼ねて場所を変えるか。良い場所を知っておるか?できれば、甘味が食べたいぞ。」


「はい、はい。リリカ様、それなら良い場所がありますよ。リリカ様のお口に合うかは分かりませんが・・・。」




エリスがリリカの要望に元気良く答えたが、考えると王女が行く様なお店でもない様な気がして弱気になってしまう。




「おススメの店と言うことか。良かろうそこに案内してもらおうか。それと、お主は?」


「申し遅れました。私はエリスと申します。この街の宿屋『精霊の宿木』の一人娘です。」


「エリスじゃな。では、エリスのおススメのお店に案内してもらおうか。」


「はい、こちらになります。」




エリスを先頭に四人は歩いていく。そこでクライスはあることに気付きアーカムに尋ねる。




「アーカム様、今日はセバスさんやお付きの方々はどうされたのですか?」


「今日はリリカ様がお忍びでと言うことでセバスや騎士は離れた場所で警備している。」


「そうでしたか。」


「どうした、二人とも。男同士でコソコソと何を話しておる?」


「大したことではありません。今から行く店を知っているか聞いていただけですよ。」


「そうか。しかし、エリスのおススメの店はどこじゃろな。楽しみでたまらん。」




リリカがウキウキしながらエリスの後を付いていく。その後ろをアーカムとクライスは苦笑いを浮かべ付いていく。


そして、商業区を歩くこと数分。四人は目的の場所に着いた。


そこには、昨日と同じく大勢の人々が列をなしていた。




「やっぱり、ここだったか・・・。」


「なんじゃ、クライスは知っておったのか?」


「エリスのおススメで、この三日市の間なら『ラルフ』しかありませんからね。」


「しかし、凄い行列じゃな。時間が掛かりそうじゃな。」


「やっぱり、待つのは不味かったですか?」


「いや、不味くは無いが・・・。わらわとアーカムは目立つと思うからのーーー。」


「リリカ様、ここはお任せください。セバス!!」


「お呼びですか、アーカム様。」


「たしかこの店は個室があったはずだが、交渉してきてもらえるか?」


「畏まりました。少しお待ちください。」




セバスがアーカムに優雅に頭を下げた後、店に向かって歩いていく。


待つこと数分。セバスが満面の笑みで帰ってきた。




「お待たせしました。皆様、ご案内いたします。」




セバスの案内でアーカムを先頭に付いていく。


セバスが案内したのは店の裏側だが、そこには『ラルフ』の従業員であろう制服姿の男性が立っていた。




「御眼に掛かれて光栄です。リリカ王女様。本日は、当店をご利用ありがとうございます。」


「突然の訪問にも関わらず申し訳ないな。」


「いえいえ、とんでもございません。リリカ王女様にご利用いただけるなど光栄の極みです。」


「王都にも名が届くこの店の甘味、期待しておるぞ。」


「ご期待に沿えるよう、精一杯作らせていただきます。」




男は深々と頭を下げる。


そして、男が後ろの扉を開けると、そこには2階に続く階段が存在していた。




「少し暗いですが、こちらからお上がり下さい。当店の個室にご案内いたします。」


「では、行こうかの。どんな甘味がでてくるか楽しみじゃ。」




4人が階段を上ると、そこには精錬された家具で作られた上品な個室が存在していた。


エリスとクライスは初めて見る光景に自然と声が漏れていた。




「「うわーーーー。綺麗な部屋だな。」」


「ふむ、上等な物を使っておるのに落ち着いた雰囲気じゃな。わらわ好みの部屋じゃな。」


「良い部屋ですね。ウースでも中々の個室と思いますね。」




二人とは対照的に貴族と王族であるアーカムとリリカは落ち着いて部屋の感想を述べる。


男が、椅子を引きリリカをエスコートしながら今の感想に答える。




「ありがとうございます。当店には、お忍びでご来店される方も多数いますので、失礼の無いようにさせていただいております。」


「良い心掛けじゃな。お忍びでも体面を気にするものは多いからの。わらわは気にしないがの。」


「自分もそこまでは気にしませんね。民の目線でこそ見える物がありますから。」


「お二人にそう言ってもらえると光栄です。では、こちらの椅子にどうぞお掛け下さい。」




男は満面の笑みで椅子に座るように促す。


そして、4人が席に座るとメニューを取り出した。




「こちらが、本日の限定メニューと従来のメニューです。ごゆっくりお選びください。」


「さて、エリスよ。どれがおススメじゃ?」


「リリカ様、ここはやはり限定メニューしかありえません。この限定メニューは三日市中でしか味わえませんから。」


「成程、ではそれをわらわは貰おうかの。アーカムとクライスはどうするのじゃ。」


「僕は、同じもので。アーカム様は?」


「僕はこの店でおススメの紅茶と、甘さが控えめの物を貰おうか。」


「なんじゃ、限定物は食べないのか?」


「申し訳ありませんが、正直に言いますと僕は少し甘いものが苦手でして・・・。」




アーカムは、申し訳なさそうにリリカの問いに答える。




「畏まりました、アーカム様。後は、そちらのお嬢様だけですがどうなさいますか?」


「私も限定メニューでお願いします。」




慌てて注文するエリス。


その様子に、やさしい笑みを浮かべた男は再び頭を下げる。




「では、限定メニューが3つと当店おススメの紅茶のセットをお持ちいたしますの少々お待ちください。」




そして、男が退室して暫くすると注文の品々が運ばれてきてエリスとリリカが舌鼓を打つのに時間はさほどかからなかった。

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