第9話 訓練と提案
「ふっ。ふっ。ふっ。」
ブン。ブン。ブン。と木剣が上下に振られる度にリズミカルに音を立てる。
全身汗だくになりながらクライスは木剣を振り続ける。
昨日、エリスと三日市での買い物を楽しんだクライスは、昨日の分も取り戻すかのようにいつも以上の気合で訓練に挑んでた。
クライスは誰かに師事を仰いではいない。以前食事に来た冒険者に、『先ずは、体力を作れ。そして剣を振れ。後は、冒険者になってからだ。』と言われたので、その言葉を素直に守っているだけである。
しかも、この訓練の年月は5年目になり5歳の頃から行っている。木剣が軽く感じるようになれば、職人区の知り合いに頼み込んで重りの入った特注の木剣を作ってもらい振っている。その為、今では木剣を振る速度は速く、もしも普通の木剣を使えば冒険者になりたての者では容易には防げない程である。
しかし、誰にも師事を受けていないクライスは10歳という若さでの以上な剣速に気付かず訓練を続けている。
それも当たり前である。10歳の子供が魔物と戦うことなど無いに等しいし、冒険者も暇では無いのでクライスに一々構っていられないのである。
なので、クライスは自分の実力も判らないまま必死に午後の訓練に勤しんでいる。
「少しは休憩したら。お昼を食べてからずっとでしょ?」
「あと50回振って休憩するよ。」
今では、会話をする余裕がある程である。
何時もの光景だが、エリスは呆れ顔でクライスに休憩を勧める。
しかし、クライスも直ぐには休まずに切りの良い所まで続けるのである。
「ふっ。ふっ。ふっ。最後!!!!」
最後は渾身の振り下ろしを見せたクライスはスッキリした顔で訓練を終える。
木剣を壁に立て掛けて、エリスが座るベンチまで歩く。
「お疲れ様。はい、タオルどうぞ。」
「ありがとう。珍しいねこの時間にエリスがここに居るの。どうしたの?」
「昨日、三日市に行ったじゃない。だから、今日は家に居ようかなーって。そしたら、久しぶりにクライスの訓練の様子でも見ようと思ってこっちに来たの。邪魔だった?」
「全然邪魔では無いけど・・・。何時もだったら皆で公園で遊んでたりするのに、こっちに居るからビックリしちゃっただけだよ。」
何時もの他愛無い会話。しかし、昨日の買い物の余韻が残っているのかお互いの顔が見られない。
しかも、何時もなら昼食後は近所の友達等と公園で遊んでいる時間だ。エリスは一般区での同年代の女の子中では群を抜いて可愛い容姿をしている。さらに、活発な性格な為男女問わず人気者だ。そのエリスが訓練中のクライスの傍に居るのは珍しかった。
クライスは、近所の子と遊ぶ事は少なかった。普段から家の手伝いの後は、裏庭で木剣を寡黙に振り続ける訓練オタクだからだ、しかし、そんなクライスでも遊ぶ時はある。
その時は10歳という年相応の装いだか、やはり訓練を想定してしまって周りに若干引かれている。
そんなクライスだが、意外にも男女問わずに人気がある。エリス程では無いが男子からはその強さに惹かれ、女子からは整った顔と周りの同年代の男の子より大人びている雰囲気で人気がある。
「今日の訓練は終わり?」
「うん、終わりだよ。昨日の分もできたから疲れたけどね。」
「そう、この後はどうするの?」
「うーーーーん。まだ夜の手伝いには時間が早いから部屋で休もうかと思ってた所かな。」
「そうなの?良かったら三日市に顔を出さない?折角の三日市だし、昨日とは違った物が見られるかもよ?」
エリスは訓練の終わったクライスが暇な事が判明すると早速三日市に誘い始めた。
これは、ネアとリサの入れ知恵であり、更には夜の手伝いが少ないという情報すら手に入れている。
だから、クライスは行くのを躊躇ったところで逃げられないのは確定している。
「いや、今から行ったら夜の手伝いが・・。」
「それは大丈夫。ネアおば様からは今日も夜の手伝いが必要ないのは確認済みだから!!!!」
「い、いつの間に!!!というか、この後の予定決められてんじゃん!!『この後どうするの?』とか聞いときながら、する事決まってるし。」
「あはははは・・・・。そこはほら、気にしたら負けとか?」
「何故に疑問なの!!!」
「もーーー、文句言わないでよ。私と行くのがそんなに嫌なの?」
「そんな訳ないだろ!!!ただ、昨日も行ったから今日は行かなても良いんじゃないかと思ったんだよ。まだ明日の最終日もあるじゃないか。」
「三日市は半年に一回しか無いんだよ。一日たりとも無駄に出来ないじゃない。」
エリスは頬を膨らましながらクライスに抗議する。
半年に一回の三日市は一日ごとに展示物が変わる。それは、『流れ星』の一団が毎日入れ替わり立ち代わりで商品を交換するからだ。特に職人区の素材は、一期一会の言葉がピッタリでその場で購入しなければならない程の流通速度である。
「わかったよ。準備してくるからちょっと待っててよ。」
「できるだけ早く準備してきてね。」
「はいはい。」
クライスはエリスを裏庭に待たせて着替るために自室に戻ることにした。
エリスはベンチに座ったままで足を揺らし鼻歌を歌いながらクライスを待つことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます