第8話 第3王女来訪
「御眼にかかれて光栄です、リリカ皇女殿下。また、長い間お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。」
アーカムが父の執務室に入ると、魔法大国マルスの第3王女であるリリカ・フォン・マルスがソファーに座って紅茶を飲んでいた。
意外な来客に驚いたが落ち着いて片膝をつき臣下の礼をとる。
「久しぶりじゃなアーカムよ。王国創立祭以来じゃな。何時見てもお主は凛々しいのー。それと、時間としては大して待ってはおらぬぞ。そなたも視察に出てたのだからご苦労じゃったな。」
「勿体ないお言葉です。リリカ様もお変わりないようで。本日はどうなされたのでしょうか?」
「まぁ、先ずは座らぬか。視察に出ており疲れておろう?」
「ありがとうございます。では失礼して。」
アーカムはリリカの正面に座ることにした。
そして、メイドに紅茶を差し出され口に含むと一息ついた。
「さて、先程の答えじゃが・・・。この街で開かれておる三日市に用があって来ておるのじゃ。三日市は珍しい研究材料が手に入るのじゃが、王都まで来るのはまだまだ先の事。待ち切れずウースまで来てしもうたのじゃ。そして、ついでで申し訳ないが辺境伯とお主に挨拶をしに参った所じゃ。」
「それは、わざわざ有難うございます。街で開かれている三日市はいかがでしたか?」
「うむ、流石は『流れ星』による三日市じゃな。王都でも中々御眼にかかれない素材が盛り沢山じゃったわ。まだ全ては回り切れておらぬから明日も市に繰り出すつもりじゃ。」
リリカは紅茶を飲みながらうっとりした表情で三日市の感想を述べる。
リリカは魔法大国マルスにおいて自他共に認める天才である。様々な魔道具や研究結果を国内外に向けて発表しており、僅か10歳という年齢で自身の研究施設を持つほどである。
「アーカム、視察はどうであった?」
今まで、リリカとアーカムの会話を聞いていたケインズが声を掛けてくる。
「はい、父上。今回の三日市ですが、前回よりも南国の国々の品物が多く、逆に北国の品が少なくなっておりました。恐らくですが、今噂の北国の情勢が影響していると思われます。」
「ふむ、やはり睨んだ通りだったか・・・。北国は今次期国王選抜で荒れているのでより注意が必要だな。ご苦労だった。明日からは休んで良いぞ。」
「ありがとうございます。では」
「アーカムよ。明日の三日市を回るのを手伝ってくれんか?」
「リリカ様・・・?自分なんかで宜しいのですか?」
「お主以外に誰がおるんじゃ?流石にケインズに仕事を残して一緒に来いとは言えぬであろう。なら、今ケインズが言ったように休みであるお主に頼んだのじゃが・・・駄目か?」
「駄目ではございません。明日の三日市、リリカ様のご案内謹んでお受けいたします。」
「うむ、頼んだぞ。やはり、王都とは違うから勝手が利かぬ。その点、お主はケインズの息子であるし、この街の者たちには顔が知られておるので適任じゃ。」
「ありがとうございます。では、明日は何時にお迎えに参りましょうか?」
「そうじゃな、朝食を食べた後が良いから・・・・八の鐘がなったら迎えに来てくれるかの?」
「畏まりました。では、明日は八の鐘の後にリリカ様のお屋敷に馬車を走らせます。」
「では、今日はこれぐらいでお暇させて貰おうかの。」
リリカは、挨拶が終わり明日の予定の話し合いが終わると、紅茶を飲み干し席を立つ。
そして、ケインズとアーカムに玄関まで見送られると、ウースにある自身の館に帰って行った。
図らずも、明日の予定が決まってしまったアーカム。
しかし、第3王女であるリリカのお相手を務められる名誉を与えられたので心は浮足立っていた。
「アーカムよ、明日は失礼の無いようにな。」
「解っております、父上。この街でリリカ様に狼藉を図るものはいないと信じておりますが、細心の注意を払います。」
「それが良かろう。私からも引き継きセバスを共に付ける。」
「セバスが居れば百人力ですね。明日のリリカ様のエスコートはお任せください。」
父ケインズに自信たっぷりに伝えると、アーカムは明日のエスコートの準備のために自室に戻ることにしたのであった。
その時、ケインズはアーカムの尻尾が左右に揺れているのを見てしまった。
息子が浮かれているのでは無いかと内心感じつつも、リリカの前でも堂々とした態度から、息子の成長を頼もしく思うのであった。
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