第7話 遭遇・客人
「おや、そこにいるのはエリス嬢では無いかね?」
突然、後ろからエリスを呼ぶ声がして二人して振り返る。
そこには、老齢の執事を連れた身なりの良い赤髪の狼の獣人が立っていた。
「おお、やはりエリス嬢でしたか。いやー、この様な所で会うとは奇遇ですね。」
「アーカム様、セバス様、ご機嫌よう。アーカム様は三日市を視察に来られたのですか?」
「ええ。父上が公務で手が離せないので、代わりにセバスを連れて三日市の視察をしていました。」
エリスを呼び止めたのは、この街の領主であるウース辺境伯の息子であるアーカムであった。
アーカムは純潔の獣人であり燃えるような赤髪が特徴的である。
「一緒に居るのは・・・・。クライス君だったかな。」
「ええ。お久しぶりです、アーカム様。」
「君も、エリス嬢と一緒に三日市を回っていたのかい?」
「はい。昼から二人で三日市を回らせていただいてました。」
「そうか・・・。」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
クライスとアーカムはお互い少し言葉を交えた後は、気まずそうに見つめ合うだけであった。
二人の態度がこうなるのは、仕方が無いと言えば仕方が無かった。
アーカムは過去にエリスを初めて見た時、一目惚れを起こし求婚をしたが断られている。
エリスにはクライスと一緒に居たいという気持ちがあったためアーカムからの求婚を断っていた。
普通、貴族からの求婚を平民であるエリスが断るのは無理である。
しかし、ウース辺境伯は『恋愛は自由であるべき、貴族だからと無理強いはせぬ』と公言しており自由恋愛が推奨されている。
それでも、辺境伯の息子であるアーカムの求婚を断るのは異常であると言える。
本来なら、人生の勝ち組と言える貴族からの求婚。それを断ってまでクライスと居たいと言うエリスの気持ちに称賛を与えたいほどだ。
「おっほん。坊ちゃま、そろそろお館様に報告に行かなくては行けない時間が迫っております。」
「む、そうか。それは仕方ない。エリス嬢、クライス君、父上に視察の報告があるので失礼させてもらうよ。」
アーカムはセバスの言葉でクライスとの睨み合いを止める。そして、視察報告の為に館に向けて足を向ける。
アーカムが遠ざかって行くと二人から深いため息が漏れる。
「「はぁーーーーー。」」
お互い、貴族であるアーカムが現れた事により相当の緊張が走っていた。
「「ぷっ、ははははは」」
「緊張したーー。エリス、大丈夫だった。」
「大丈夫だよ。そりゃ、前にいきなり求婚されたけど、その後何も無かったし今日も話をしたぐらいだからね。」
二人は緊張が解けて笑い合いながらお互いの心配する。
「じゃ、今度こそ帰ろうか。」
「うん。早く帰らないと父様が心配するからね。」
貴族であるアーカムと遭遇するというハプニングはあったが、今度こそ二人は手を繋ぎながら家に帰ることになった。
■■■■■
「「「「お帰りなさいませ、アーカム様。」」」
アーカムが屋敷に戻ると玄関でメイドが出迎えてくれる。
アーカムはメイドに上着を渡すと父であるウース辺境伯の居場所を聞く。
「ご主人様なら執務室でお客様の対応をしております。」
「客?今日は来客の予定は聞いていなかったが・・・・。セバスは何か聞いているか?」
「いえ、私も聞いておりませんが。突然の来客でもお会いなさるということは余程のお客様では無いかと・・・。」
「ふーむ。そうなると、報告は後回しにしたほうが良いか?」
当主である辺境伯が突然の来客の対応をしている。
視察の報告も大切だが当主の息子として来客の対応をするべきかどうか?アーカムは頭を悩ませる。
なにせ、突然の来訪にも関わらず当主が対応する。本来ならあり得ないことだからだ。
基本、貴族との面会は約束を取り付けてからでないと出来ない。
自身より格の高い貴族ならまだ可能だが、辺境伯でもある父の下に突然の来訪出来る貴族は少ない。
それ故に、アーカムは頭を悩ませてしまう。
「アーカム様、お客様の事ですが。ご主人様より、『視察が終わり、次第執務室に来るように』と伺っております。」
「何・・・?来客が居るのにか?なら、息子としてきちんと対応しなくてはならないな。よし、セバス準備を頼む。」
「畏まりました。直ぐにご用意いたします。」
「では、一度自室で準備をしてくる。父上には直ぐに向かうと伝えてくれ。」
「畏まりました。」
そして、アーカムは急ぎ自室に向かうことにする。
アーカムは自室に駆け込むと急ぎ身だしなみを整える事にした。
「ふむ、こんなところか。では、客人と父上をを待たせてはいけないから急ぎ執務室に向かうとしよう。」
身だしなみを整えたアーカムは父と客人の待つ執務室へと足早に向かう。
執務室はアーカムの自室からさほど離れてはいない為直ぐにたどり着くことが出来た。
コンコン。重厚なドアに付けられたノッカーを鳴らし。
「父上、アーカムです。中に入ってもよろしいでしょうか?」
「ようやく来たか。早く入ってきなさい。」
「失礼いたします。」
アーカムは一言添えて父の執務室に足を踏み入れる。
そして、アーカムは目を見開いて驚くことになり、直ぐに片膝をつき臣下の礼をとる。
「御眼にかかれて光栄です、リリカ皇女殿下。また、長い間お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。」
父、ウース辺境伯の執務室にいたのは魔法大国マルス第3王女リリカ・フォン・マルスであった。
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