第1話 朝の風景

「おはようございます。」


黒髪の少年が朝早くの食堂を利用している冒険者に声をかける。


「おう。おはよう!!今日も朝早くから手伝い偉いな。」


大きな剣を机に立て掛け傷だらけの腕や顔、重たそうな金属の鎧に身を包んだ剣士と言うのがピッタリの男性が返事を返す。


「これも、仕事ですから・・・。本音を言えば、早く冒険者になりたいです。」


黒髪の少年が残念そうに答える。


「ハハハハハ。年齢制限があるから、10歳の坊主にはまだ早いぞ!!」

「解ってますよ・・・。朝食のセットどちらにしますか?」


黒髪の少年が、剣士の男性の言葉に不機嫌になりながらも注文を聞く。


「今日も、肉で頼む!!朝から力付けたいからな。」

「解りました。直ぐに用意しますね。父さーん。肉セット一つお願い。」


少年が厨房にいる父親に注文を伝える。


「今日は、ギルドで依頼を受けられるんですか?」

「良い依頼があればな。最近、長期依頼を受けていないからあれば受ける予定だぞ。」

「そうなんですか。もし受けられたら暫くは会えなくなりますね。」

「そうなるな。まぁ、その時は土産話でも期待しとけ。」

「楽しみにしていますね。」


冒険者と話をしてると、朝食の準備ができたのか父親から声がかかる。


「クライス。肉セットが出来たからもってけ。」

「はーい・・・・。肉セットお待たせしました。」

「お、来たか。依頼があれば暫くはココの飯ともおさらばか。美味しく戴くとしよう。」


朝食と言うには消化に悪そうなジューシーな肉料理を男性は美味しそうに食べだした。


「クライス、まだ店も混んでないから今の内にエリスちゃんと朝食食べとけ。今から準備しといてやるから、エリスちゃんを呼んできなさい。」

「わかったよ。肉多めに用意しといてよ。」


クライスと呼ばれた少年は、同じくエリスと呼ばれた少女を呼びに出かける。

エリスと呼ばれた少女は、クライスの両親が経営している食堂の隣で宿屋を経営している家族の一人娘である。


「エリスーーー。父さんがご飯用意したから食べよう。」

「あら、クライス君おはよう。エリスならまだ寝てると思うから、起こしてくれるかしら?」

「わかりました。じゃ、部屋にお邪魔しますね。」


そう言うと、クライスは我が家の様に階段を駆け上がり三階のエリスの部屋に辿り着いた。

そして、ドアをノックしながら彼女の名前を呼んだ。


「エリス―、起きてるー?入るよー?」

「クライス?起きてるけどちょっと待って。今着替えてるの。」


中からエリスの返事があったので、クライスはドアの前で待つことにした。

待つこと数分。


「お待たせ、クライス。どうしたの?」


ドアが開いて鮮やかな銀髪で緑と青のオッドアイをしている可憐な少女が現れた。


「いや、どうしたの?じゃないよ。父さんが朝ごはん用意してくれているから一緒に食べなさいってさ。」

「おじ様が。分かったわ。じゃー行きましょ。」


そう言うと、エリスはクライスの手を掴み階段に向かって歩き出す。


一階に降りるとエリスの両親が受付に立っていた。


「おはようございます、父様、母様。」

「おはよう、エリス。カインさんが朝食用意してくれてるから食べてらっしゃい。それと、後でバースが食べに行くって伝えといて。」

「分かりました。ほら、クライス行こ。」

「分かったから、引っ張るなよ!!リサさん、バースさんまた後で。」


エリスに手を引かれるのが嫌なのか、逆に自分が手を引く感じで宿屋を出ていく。


「本当に、仲がよろしくて。ねぇ、バース?」

「兄妹みたいに育ってるからな。いつも一緒に居られてエリスも嬉しそうだ。」

「親からしたら仲がいいのは嬉しいことだよ。後は、本人の気持ち次第だけどね。」

「エリスは領主様の息子の誘いを断ったんだろ。『自分には好きな人が居ますので申し訳ありません』って」

「そうなのよね。私はクライス君の事だと思ってるけど、エリスが何も言ってくれないと何も言えないからねぇー。」

「そこは、我慢強く待とうよ。もう暫くすればエリスも何か言ってくれるさ。」

「そんなものかねぇ・・・。っと、今日出て行った客室の掃除でもしてくるよ。」

「掃除がひと段落したら、交代でカインさんの所で朝食をいただこうか。」

「なら、ちゃっちゃと終わらしますかね。あんたは受付や玄関回りを頼んだよ。」

「任せて。何時の様に綺麗に掃除しとくよ。」


二人は、会話を切り上げて宿の営業に戻っていった。

そして、二人の子供は。


「おはようございます、おじ様。今日もいい天気ですね。」

「おはよう、エリスちゃん。今日も可愛いね。」

「おじ様、褒めても何もでませんよ。」


カインに褒められたのが嬉しかったのか、頬を赤らめながら返答する。


「エリス、座って座って。今、食事と飲み物持ってくるから。」

「ありがとう、クライス。」

「飲み物はミルクとオレンジどっちが良い?」

「ミルクでお願い。」

「分かった・・・。はい、朝食とミルク。」


エリスの前に、カイン特製の朝食と朝一番絞りのミルクが置かれる。


「今日は、野菜と卵のサンドイッチとスープだよ。スープは熱いから気を付けてね。」


カインがエリスに注意を促すと。


「父さん、肉は?俺、肉が良いって言ったじゃん。」

「肉は、客に出す用だ。朝から肉食べたきゃ仕事をもっと頑張りな。」

「ちぇー。仕方ないか、これはこれで美味しいから良いか。」


ぼやきながらも、クライスは豪快にサンドイッチを頬張っていく。

その様子を、エリスはクスクスと笑いながら見ていた。

そして二人仲良く朝食をとると、エリスは宿の手伝いにクライスは食堂の手伝いに駆り出される。

こうして、クライスとエリスの一日は始まっていくのだった。

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