精霊と混ざりあった少年
田舎暮らし
第0話 始まりの事件
「ぐぁ。あああああああああああああ。」
少年の悲痛な叫びが響き渡る。
少年は数多の光と雷に身体を蹂躙されている。
さながら拷問の様だが助けることができないでいた。
「クライスーーーーー。」
鮮やかな銀髪を振り乱しながら少女が叫ぶ。
どうにかして、『クライス』と言われた少年を助けたくて仕方が無かった。
「リリカ様、アーカム様どうにかしてクライスは助けられないのですか?」
「僕も助けたい気持ちだが近づくことが難しくては。」
アーカムと呼ばれた赤髪で『狼』獣人の少年が呟きつつも顔を歪める。
「どうにかと言われても、この状況では流石の私でもどうすることもできん。」
リリカと呼ばれた金髪の狐耳の少女が答える。
今も続く、光と雷の少年への蹂躙と周囲の崩壊現象が3人の少年少女を近づくことを拒んでいる。
「どうして、こんな事に。さっきまでは大人しくしていたのに。クライス君が近づいた途端に精霊の暴走が始まるなんて。一体何に反応したんだ。エリス君、クライス君は今日は特別な物か何かを着けてていなかったか?」
アーカムに問いただされ、エリスと言われた銀髪の少女が考える。
「特に、これといった物は着けてていないと思いますが・・・・。もしかして!!!」
何か思い当たる物があるのか、エリスは発言する。
「以前開催された三日市の時にお揃いのペンダントを買ったんですが、錬金術師の御婆さんが昔に集めた素材で作ったペンダントです。お互いの髪の色に合っていたので買ったんです。」
「その、ペンダントが怪しいのぅ。他に、気になる点は無かったか?」
リリカは、ペンダントに何かがあると踏んで更に質問を続ける。
「錬金術師の御婆様は珍しい素材としか・・・。」
「お互いの髪の色に合ったペンダントと突然の暴走か・・・・・。今日は着けておるか?」
「こちらになります。」
そういって、エリスは自分の胸元から黒く輝くペンダントを取り出した。
「これか・・・・。ふむ、クライスのペンダントは白く輝いているか?」
「クライスのは白銀の色のペンダントです。」
「なるほどのー。多分じゃが、精霊石を素材に使っておるのか。」
リリカが何かに気付いたのか、ぼそりと呟く。
「リリカ様、精霊結晶とは精霊が死後に残すと言われる物で間違いないですか?」
アーカムが確認の為にリリカに尋ねる。
「そうじゃ。精霊結晶は精霊の魔力の残滓が形となった物で色により属性が判断できる。黒と白銀じゃから『闇』『光』と思う。しかし、精霊結晶なら暴走の原因にはなりえるぞ。自分とは相反する属性、もしくは同じ属性の精霊石が近づけば暴走するのは仕方がないということか?多分じゃが『光』の精霊石に過剰に反応したんだろうな。なら、そのペンダントが外れればこの現象も落ち着くはず。」
「リリカ様、ペンダントさえどうにかすればクライスは助かるんですか?」
「多分じゃがな、恐らくペンダントに対して攻撃が絶えず為されておるから、ペンダントが外れれば収まるはずじゃ。今は、クライスの魔法に対する抵抗が高いから悪戯に長引いておるだけじゃと思う。ペンダントの精霊石が自動で防御しておるのじゃろう。しかし、それでも限界はあるので早く外したほうが良いのじゃがこの状況では・・・・・。」
「だったら、私がそのペンダントを取り外します。リリカ様程の魔力は有りませんが、魔力制御には自信が有ります。私にやらせてください。」
「お主・・・・。危険じゃぞ。一歩間違えれば攻撃されたと思い、矛先がこちらに向かんとも限らん。そうなれば、クライスを助けるどころでは無くなるぞ。それでも良いのか?」
「構いません。クライスを助けるためなら、それに今も苦しんでるクライスを見てられません。」
エリスは覚悟を決めたのか、普段は見せない決意の表情でリリカの問いに答える。
「なら、わらわは止めん。エリスよ、自分の納得いくようにして見せよ。私は、他に解決策が無いか考える。アーカムもそれで良いな?」
「はい。」
「ありがとうございます。」
エリスは満開の笑顔で答えると、クライスに向き直り自身の胸の前で魔力を集め始める。
強すぎても弱すぎても駄目。クライスの周りに漂う精霊に細心の注意を払いながらクライスの胸元にあるペンダントを狙う。
使う魔法は初級無属性の〈マジックアロー〉。下手に属性を付与せず純粋に魔力だけの矢を飛ばしペンダントを破壊するつもりである。
「集中、集中、集中。」
エリスは、自然と声に出てしまっているが気にせず魔力を集めていく。
絶えず漂う精霊の間を掻い潜り〈マジックアロー〉を飛ばすのだ。失敗は許されない。
幼い少女とは思えぬ集中と魔力制御には見守っていたリリカも驚いていた。
「まさか、これ程とは・・・。魔力制御で言えば、わらわ以上では無いか。」
エリスの前には莫大な魔力が集められているが、暴発の危険は無く淀みなく操られていた。
「いきます。」
エリスは一言呟くと操作していた〈マジックアロー〉をクライス目掛けて解き放つ。
解き放たれた〈マジックアロー〉はクライスの胸元のペンダントに吸い込まれるように直進する。
『パキーーーーーーーーン』
凡そ、想像も出来ない程の甲高い音が響き渡り一瞬の静寂が訪れた。
見事、エリスが放った〈マジックアロー〉は漂う精霊の間を潜り抜けて、クライスのペンダントに当たりペンダントを破壊したのだ。
『ドサッ』と音を立てて精霊から解放されるクライス。
「「クライス。」」
「クライス君。」
解放されたクライスに駆け寄る3人。
それと同時に、開け放たれた扉から数人のメイドと騎士達が駆け込んでくる。
「姫様、この騒ぎは何事ですか?膨大な魔力の波動が確認されましたが一体。」
「うーーーーむ。何と説明すれば良いか・・・・。」
何とも、罰の悪そうな顔でリリカは駆け込んできたメイドや騎士達に説明を始めた。
先程から感じていた魔力は何なのか?何故、姫が招待した平民であるクライスがボロボロな状態なのか。
全ては、クライスとエリスが第3王女であるリリカと出会う数日前に遡る。
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