第5話 運命
「ねーねー、おじょーさんどっから来たの?良かったらボクと結婚しない?」
「!?」
彼女はもう少しで男を斬りつけるところだった。唐突な声掛けに怒りを覚えたからではなく、単純に魔獣が攻め込んできたと思ったからだ。
「危険よ、私から離れて!」
何かとんでもないことを言われた気もするが、おそらく聞き間違いだろうと彼女は判断した。まさかこの事態にいきなり求婚してくる馬鹿がこの世に居るはずないだろうから。
「おじょーさん名前なんてーの?教えて教えて」
「今はそれどころじゃないって見りゃわかるでしょ!」
魔獣はこの
「じゃあ後だったら結婚してくれる?」
「後だったらまあ……って、やっぱり結婚って言ってたし!あなたどどど、どういうつもり!?」
「プロポーズだけど?」
「会って間もなすぎる!」
「恋は落とし穴のようなものさ、いつ落ちるかわからない」
「その前に命落としそうなんだけど!?」
「……俺のために命を賭してくれるなんて」
「あなたのためじゃない!っていうかむしろあなたのせいでそうなりそう!」
「俺のせい?ああ、俺は何て罪深い男なんだ。もう既に君の心を掴んで離さないだなんて」
「何だか会話がかみ合ってないんですけど!?」
「オーケーわかった。俺も君のために命を賭すよ、俺たち二人は、もう運命共同体だ!」
「逃げ込んだ先に魔獣よりやべー奴がいるだなんて!神はやっぱり私を見離し過ぎ!」
彼女はもう泣き出したい気分だった。だがひょっとしたら神は彼女を見離してはいなかったのかもしれない。あれだけ執拗に彼女だけ狙っていた魔獣が男へも襲い掛かろうとしていることに気付いたからだ、それも彼の背後から。
「……っ!」
助けなきゃ、と彼女は思った。だが同時に
なあに、仮に彼を助けられなかったとしても、これは事故だ。私のせいじゃない、むしろこんな非常識なことを仕出かしているこの男の自業自得だ――心に陰が刺した。
が、彼女はほぼ無意識のうちに志向した。彼女の背中と同様の、だが点状に模様が描かれた左手を魔獣に向けながら。
「神よ、お願い!」
ほんの少しのタイムラグの後、光が魔獣を貫いた。魔獣は断末魔を上げる暇も無く、そのまま煙と化す。とても小さな一欠片の塊だけを地面に転がして。
「!?」
だがこれは彼女の想定とは違っていた。本来は、差し出した掌から同様の現象が起こるはずだったのだ。
だが光は上空から降り注いでいた。ちょうど、彼女が飛んできたのと同じ方角から。
「……神?」
そう、そこに居たのは神……と思われる風貌の者。にもかかわらず、やはり神は彼女を見離したままなのかもしれない。
「おじょーさんおじょーさん。ボクの名前はルタって言うんだけど、おじょーさんはー?」
魔獣は消えども、
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