第4話 飛来
ギャリギャリギャリッと、道路との摩擦音。幸いにも障害物になりそうなものはたいしてなかったようだ。数メートルほど道を削った後に、ようやくその物体は止まる。
「……おいおい、何事だよ」
ニコルが呟いた。近くにいた人々もざわめいている。
そこに居たのは若い女性。身長は百六十センチ半ばほど、健康的な太ももを惜しみなく披露するかのような短めなスカートを着用しているせいで、その下に履いている黒の一分丈スパッツが風に煽られちらりと覗く。
だがその姿は背面から窺い知ることはできない。何故なら彼女は膝付近までを覆った赤と白の太い縦縞服を
その背に描かれたるは何やら幾何学的な模様。まるでその上に浮かんでいるかのように、栗色のセミロングが
彼女は前髪を掻きあげた。その顔は幾分
「逃げて!」
所持していた剣を自分が飛んできた方向に構えながら彼女は叫んだ。
飛んできた
「くっ!」
膝上までをすっぽりと覆う黒のブーツで強く地面を蹴り上げ、彼女は慌ててその場から飛び退く。同時にその場所に勢いよく
「あああっ!? ウチの車が!」
「アハハハハハッ!車がっ!転がってる!ギャハハハハッ!」
情けない声を出したニコルを
彼女は恨めしそうな目をリリーに向けたが、
「アハハハハハッ!ひぃ~お腹痛い!車が、お箸みたいに、転がって、煙吹いギャウッ」
リリーの言葉は最後まで続かなかった。今度は彼女自身が他の
「人があんなに笑い転げるところ、アタイ初めて見たよ。よっぽど楽しかったんだねえ」
「お役にたてて何よりだよ、リリー」
そう言いながら、彼女が巻き起こした粉塵を眺めるニコルの表情はとても晴れやかだった。
しかしそんなほのぼのタイムも長くは続かない。辺り一面隕石のように相変わらず
「で、これは一体何なんだい!?」
ハンナが頭を抱えながら逃げ惑う。
「見たところ魔獣のようだけどな」
一方のニコルは余裕ありげにゆるりと動いていた。歪な翼、巨大な鉤爪、鋭い牙を持ち合わせた異形の者が雨あられの状況であるにもかかわらず。
「何だってここに魔獣が降ってくるわけさ!?」
「
「そういうこと言ってるんじゃなくってねえ……」
「なら、あの都合のいい女が連れてきたんだろ」
と、ニコルは
「一体何しにだい?見たところ、この里を襲いにやって来た侵略者って様子じゃないけどねえ」
確かに、魔獣の多くはその女性に照準を合わせているようであり、彼女もまた剣で魔獣と渡り合っている。この点から鑑みれば、飛来してきた女性の黒幕説は否定されているように見えた。
「だから
いずれにしろ、剣を振るう女性に近づくのは魔獣だけではなかった。更なる厄介な
「そんなこと、あるわけないだろ?」
ハンナは眉をしかめるが、ニコルは皮肉げに笑う。
「だってタイミング良すぎじゃねーか、いくらなんでも」
「運が悪すぎ、の間違いなんじゃないのかい?」
「少なくとも
見ると、建物に突っ込んだ仲間の一人が既に仁王立ちしている。もくもくと立ち上る土煙の中、さも楽しげに笑みを浮かべながら。
「死んだ方がマシって、思わなきゃいいけどねえ」
ふくよかな女性はそう呟きながら、自身も
「ま、ウチらもちょっとは
金髪が、ふわりと舞ったように見えた。
「どっちに対して、だい?」
「どっちに対しても、だよ」
魔獣が狙っているのは主にあの女性だ、それは間違いない。だが、魔獣を狙っている者が彼女だけとは限らない。
そして
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