第13話「アリスの攻防」
シータス達と別れた後、アリスはもう一度部屋に戻りラビアンとリリアナに
「シータス達は外へ魔物の駆除に向かったわ。私は他の宿泊客達に警告に行く。ラビアン、リリアナちゃん、私が戻るまで部屋に鍵をかけて誰の声がしても絶対に開けないで!いいわね?」
と強い口調でまくしたてた。ラビアンはまた自分達二人きりにされるのか、と不安げな表情を一瞬浮かべたが昨夜と違ってここは宿泊部屋だ。
人間の在りし空間というだけでなんだか心強かったので反論はせず黙ってうなずいた。
アリスもそれを確かめるとドアを閉めて鍵のかかる音まで確認し辺りを見回した。
既に立ち込める異様な空気を感じ取っていた。ドアの開いている部屋が何か所かある。
外の魔物を見て驚いて逃げ出す……というのは考えにくそうね、とアリスは開いたドアに背をつけて耳を澄ます。
……吐息が聞こえる。下品な吐息が。
アリスは上着を脱いで部屋のほうへ放って投げると待ち構えていたらしいグールが上着目掛けて襲いかかってきた。
「キイィーーー!……!?」
囮だと気付いたグールだったがアリスの姿を見た時にはもう遅かった。
「残念だったわね!」
ニッと笑ってグールの額に銃弾を二発撃ち込む。
「ギイイイィィィ!!」
耳障りな悲鳴をあげて倒れこむ。しばらく痙攣していたがやがて動かなくなった。
敵が死んだ事を確かめたうえでアリスは部屋の中の様子を窺った。そこは既に血の海と化していた。
その血の出所となっている宿泊客はピクリとも動かない。
アリスはため息を吐いて部屋をあとにした。
もうグールは宿の中に入り込んでいる。
おそらく、彼らの言葉に惑わされて中に入れてしまったのね……。
だとしたら何匹入り込んだのかしら?
下手すると私一人では対処しきれないかもしれないわ……。
アリスが足音を忍ばせながら廊下を歩いていた時。
「きゃあーーー!」
女性の悲鳴が聞こえた。
「!」
すぐさま悲鳴が聞こえた方向に目をやる。
廊下の曲がり角のほうだ。十分に警戒しつつ悲鳴が聞こえた方へ急ぐと、女性客が襲われている所だった。
「いやああぁぁ!」
彼女を犯すつもりなのだろう、服はぼろぼろに引き裂かれ肌が露わになっている。
アリスはかっと頭が熱くなるのを覚えながらグールの首に狙いを定めて銃弾を放った。
欲望を吐き出すのに夢中だったグールは不意を突かれそのままドタリと倒れこんだ。
……即死だったらしい。
「大丈夫!?」
アリスは襲われていた女性客に手を差し伸べ抱き起した。
そして毛布を巻きつけてやる。
女性客は涙を流しながらその毛布で身をくるんだ。
「怖かった……あんなのにレイプされるのかと……」
「そうよね……間に合って良かったわ」
「ありがとうございます……」
「いいのよ。それより、私はまだ他のお客さん達の所に行かなきゃいけない。あなたはここの鍵をしっかり閉めて誰が来ても開けないで朝を待って。いいわね」
アリスの言葉に彼女は泣きながらも目を見て頷いて答えた。
女性をまた再び一人にしてしまうのに一抹の不安はあったが仕方がない。アリスは再び、鍵の閉まる音を聞くと階段の方へ歩みを進めた。
階下の方に目をやるとグールが四匹歩いている所だった。獲物を物色しているようだ。
どんだけ入り込んでんのよ……!
アリスは見つからぬよう咄嗟に影に隠れる。
四匹……多い……倒しきれるかしら……。
胸のダガーナイフを二丁抜き素早く階下のグールの頭を狙って投げた。
元々腕のいいアリスが隙だらけの相手に攻撃を外すはずもなくナイフは二丁とも二匹のグールの頭に刺さって血の噴水を作った。
アリスの影に気付いた一匹のグールがけたたましい鳴き声と共に二階に向かってきたが、
「いらっしゃいませお客さん」
待っていましたと言わんばかりににんまり笑ったアリスの銃の餌食になった。
残る一匹のグールも素早くアリスに襲いかかってきたが、
「はあっ!」
アリスも素早く反応しグールの頭に力強い蹴りで応戦。
ひるんだグールが身構える間もなく今度は腹を蹴り飛ばし、距離をとると息つく間もなく頭に銃弾を撃ち込んで戦闘を終えた。
ふーっと深いため息をついてグールの死体を見渡す。
さすがに連戦は疲れる。
相手が隙だらけだったとはいえ一人でグール四匹なんてよく相手に出来たわね、自分で自分を褒めたいわ。
などとやや自分を誇らしく思いつつ、銃弾を補充しオーナーの部屋に向かう。
この異変に彼も気付いているとは思うのに。
普通、宿泊客に注意したり様子を気にしたりしそうなものなんだけど。
気付いているからこそ出てこないのかしら?
まぁ隠れているのが一番いい方法ではあるのだけど。
なんだか違和感を抱きながらアリスがオーナールームを覗きこむと……。
ドアは既に開け放たれ、その奥でオーナーらしき男性が倒れているのが見えた。
「うゥ……」
まだ息があるのかうめき声が聞こえた。それを聞いてアリスは慌てて
「オーナー!?」
彼に駆け寄ってしまった。それがいけなかった。
「ケケーーー!」
ドアの影に潜んでいたグールが後ろからアリスに襲いかかった。
「しまった!」
アリスはまともに抵抗できず馬乗りにされてしまった。
「ああっ!!」
その勢いでハンドガンも弾き飛ばされ床を滑って転がっていってしまった。
グールは牙をむき出しにして噛みつこうとしてきたが咄嗟に腕を差し出し防御する。
「うぅっ!」
腕から鮮やかな血が噴き出す。
「ゲヒャヒャヒャヒャヒャ!!オイシソウ!!」
血を見て興奮したグールは下品な笑い声をあげながらアリスの衣服を引き裂き始めた。
女であるアリスを犯すつもりらしい。噛みつこうとしてきたところを見ると獲物が生きていようが死んでいようがどうでもいいのだろう。
しかし普通の女ではないアリス。拳に力を込めて思い切りグールの顔面を殴りつける。
「やめなさいよこのチビ!」
「ギッ!」
痛がる素振りは見せたがあまり効かなかったらしく、かえって怒らせてしまい、アリスの脇腹に思い切りその鋭く長い爪を刺し込んだ。
「ああぁぁっ!!」
味わったのことのない激痛に悲鳴と共に体ものけぞる。その姿に、より興奮を高めたグールはアリスの体を味わうその陰部をかたくそそり立たせ彼女の秘部にあてがう。
「!!」
アリスは腰を揺らして必死の抵抗をするが、今度はグールはアリスの顔を殴りその抵抗をやめさせる。
そして下品な笑みが近付きその臭い口がアリスの口を貪った。
「んんっ!」
抵抗はすれどまるで振りほどけない。しかしアリスの闘志はまだ燃え尽きない。
アリスは抵抗のすべを見つけるべく自分の腰をまさぐっているとあるものが右手に触れた。
そして唇を貪るグールの頭を左手でそっと抱き、狙いを定めて思い切りその道具を耳の穴の中に突っ込んだ。
「ギャアアアァァ!!」
突然耳に走った激しい痛みに思わずのけぞるグール。アリスは今だとばかりに態勢を立て直しグールの背後に回り込んで首を固めそのまま首を勢いよく回し折って殺した。
グールの耳に刺したのは銃の手入れの時に使うクリーニングロッドという細い金属の棒だ。
アリスは肉体に与えられた屈辱的感覚に嫌悪しながら、グールの顔に唾を吐き捨てた。
そして倒れているオーナーに近付いて息を確認すると既に亡くなっていることがわかった。
体温も既に失われている。
さきほど聞こえたオーナーと思しきうめき声はドア影に隠れていたグールがアリスを誘い出す為に発したものだったようだ。
まんまと罠にかかってしまったのね、と悔しくなった。
それにしても、腕と脇の出血と痛みがひどい。この状態ではまともに戦闘にもならないし一度ラビアン達と合流して回復魔法をかけてもらった方がいいかもしれない。
そう思い、タオルを腰に巻きつけてオーナールームを出ると……。
二階から物音がする。
まさか。
まさかまだいる?
もう正直戦える状態では……。
いいえ、いかなくては。
彼女達を守れるのは私しかいないのだから。
アリスはヨロヨロとしながら物音のする二階へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます