第7話 餅つき!(後編)

「おじいちゃん、もうすぐ死んじゃうんです。それを知ってからずっと部屋に閉じこもっちゃって、なんか...引きこもりの先輩みたいですね」


 乾いた笑いを漏らす香夏


「私から、なんて話しかけたらいいか分からなくて...

 最後くらいもっとお話し聞きたかったな。

 小さい頃は色んなお話を聞かしてくれたのに...

 あっ、すみません。

 なんか、暗くなって。

 前から思ってたんですけど先輩って聞き上手ですよね」


 そう言いながら笑う香夏。


 上手く笑えてねえよバカ。


 家の中に入りトイレの前で立ち止まる。


 俺が用があるのはこっちじゃない。


 ドアをノックする。


 すぐに中から「どうぞ」と声がする。


 そう、俺が用があるのはこっちだ。


 目の前には香夏のおじいさんがいる。


「おや?また君かい。どうしたんだい?」


「あなたをこの牢獄から連れ去りに来ました」


 これ言っててめっちゃ恥ずかしい。


 そのまま部屋に入り、おじいさんをお姫様抱っこで

 抱え上げる。


 ふぐぅっ。


「だ、大丈夫かい?」


 心配されてしまった。


「大丈夫です!」


 そのまま家を出て、家の脇から香夏パパと香夏が楽しそうに餅つきをしている姿を見せる。

 おじいさんはその光景を見て優しい笑みを浮かべた。


「あの子に辛い顔をして欲しくはない...わしはこの幸せそうな笑顔を壊したくはないんじゃよ」


「だったら尚更、一緒に居てあげてください。香夏さんは大好きなあなたと一緒に居れないことの方が辛いと思いますよ」


「…そうじゃな。久々に香夏の顔が見れてよかった。そろそろ部屋に戻してくれ」


「あ、はい。勝手に連れ出してすみませんでした」


「…ありがとう」


 おじいさんを部屋に送り、餅つきに戻る。


「あー先輩遅すぎですよ~。もう終わって、ついたおもちを食べるとこですよー」


 香夏パパが燃え尽きている。


「健哉君さぼりすぎだよー」


「てか先輩?なんでそんなに体プルプルしてるんですか?まさか貧弱先輩は限界ですか?」


 ちげーよ、アホが。


 さっきまで、人一人をずっとお姫様抱っこしてたから体が限界なんだよ。


 香夏が俺にお椀を渡す。ついた餅はお雑煮になったらしい。


「そういえばこれ、先輩と前に植えて収穫したもち米を使ったんですよ」


 あー、あの泥だらけになったやつか。


「香夏~?おじいちゃんがお餅食べたいらしいから持って行ってー」


 香夏ママなのか、家の中からそんな声が聞こえた。


「えっ?…いま持ってく!」


 元気よく返事をし、香夏は走って家の中に入っていった。



「おじいちゃん!お雑煮持ってきたよ!」


「ありがとう」


「このお餅ね、今日来てる先輩と一緒に植えて収穫したもち米で作ったんだよ!おいしいから期待してね!そうだ!小さい頃聞いたお話、また聞きたいな!」


「それより、香夏の先輩がどんな人かわしは聞きたいぞ。香夏達がついたおもちも食べなきゃいかんからな」


「先輩の事?…わかった!まずはね~」

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