第6話 餅つき!(前編)
年が明けて3日くらい経った頃、俺は香夏の家の前にいる。
時は遡り、今朝のことだ。
いつも通りに俺の家に不法侵入をした香夏は、布団を剥ぎ、強制的に着替えさせ、俺をそのまま連行した。
そして現在に至る。
「お、君が健哉君かい?」
庭先からおじさんが現れた。
「あ、パパ。先輩連れてきたよ~」
「いきなりごめんね。家族で餅つきをすることになったんだけど、この年になると中々しんどくてね、男手が欲しいって言ったら香夏が先輩呼んでくる!って言って走って行っちゃったんだよ」
「あー餅つきですか、まあ暇なんでいいですよ。ちゃんとできる自信はないですけど」
「ありがとう健哉君。じゃあいきなりだけどこっち来て…」
「あ、すみません。寝起き一発目に拉致られて来たんでお手洗いだけ貸してもらえますか?」
「先輩ごめんね、トイレもさせてあげられなくて...」
ほんとな
「玄関入って突き当りを左です」
「おう。すみません、ちょっと待ってもらえますか」
「急がないからゆっくりしてきな」
玄関から入り、突き当りの左…
引き戸だけどほんとに此処か?
とりあえず開ける。
すると部屋の中の老人と目が合う。
「香夏のお友達かい?」
「あ、はい。
すみません、お手洗いってどこですか?」
「ああ、それなら向かいだよ」
右じゃねーか。
「ありがとうございます。
…おじいさんは餅つき来ないんですか?」
「わしはいいんじゃよ」
「そうですか」
「楽しんでおいで」
「はい」
庭に戻り、ばてばての香夏パパに杵を渡される。
交代らしい。
「遅かったですね。大ですか?」
「いや、小だ。
てか、おじいさんと話してた」
「え⁉おじいちゃんにあったんですか?」
香夏は目を見開いて驚いている。
「ん?ああ。
お前左じゃなくて右だろ、間違えておじいさんの部屋に入っちまったじゃねーか」
「あ...おじいちゃん元気でした?」
俯きながら変な質問をする香夏。
「ん?普通だったぞ」
「そうですか」
見るからに元気がなくなっている。
「なんかあったのか?」
*
*
*
「ちょっとトイレ行ってくる」
「先輩さっき行ったじゃないですか。もう疲れちゃったんですか?」
「ああ、もうくたくただ。次は大だから長くなるかもな」
香夏パパに杵を渡す。
「トイレ行ってる間お願いします」
「お?もう交代なのか。
じゃあパパがまた頑張っちゃおうかな。
いくぞ~香夏」
あんな顔は見たくない、これは俺のわがままだ。
あいつには笑顔でいてほしい。
あいつが悲しい顔で言った言葉が、ずっと頭に残っている。
いいわけないだろ。
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