5
「ジルモンド国王陛下、今はまだ私には何の力もありませんが、これから国へ戻り、必ず力を手にしてきます。そして、今回の毒に関わっているであろうユーディアナに罰を与えますわ」
エリネージュはジルモンドに宣言し、微笑む。
そして、ジルモンドにだけ聞こえるよう、小声で囁く。
「もし、すべてがうまくいったら、レクシオンと結婚するのを許していただけませんか?」
ジルモンドが驚いたように目を見開いた。
「本気なのか?」
疑うようなジルモンドの問いに、エリネージュは迷わずに頷いてみせる。
「私、思っていたよりもレクシオンのことが好きみたいです。最初は死体に求婚するような変態だし、言っていることも訳分からないし、絶対に好きになんてならないって思っていたんですけどね……私も、彼に救われたんです。それで、彼の笑顔を見るたびに眩しくて、あぁ好きだなぁって……」
ジルモンドは、エリネージュの話をじっと聞いている。
「でも、今まで意地を張りまくっていたので、今更どう伝えればいいのか分からないし、こんな状況だしで……ですからどうか、ジルモンド国王陛下が機会をくれませんか?」
「何故、私なのだ? レクシオンに憎まれている私ではなく、もっと他に」
「だって、レクシオンのお父様ではないですか!」
その一言に、ジルモンドが絶句した。
父である前に国王であろうとしたのだろう。
そして、フェリエと過ごしていた時もきっと、男ではなく、国王であろうとしたはずだ。
しかしそれが壊れたのは、愛する者を失ったから。
「……そう、か。レクシオンも、私を……父だと思っているだろうか」
「もちろんです。レクシオンにとってはきっと、国王陛下である前にお父様だと思いますから」
「そう、か……」
「私は、もう逃げ続けることも、意地を張るのをやめようと思います。ですからどうか、陛下もレクシオンと向き合ってください」
国王である彼に、レクシオンに謝れとは言えない。
国王である彼は、他国の王女であるエリネージュの前でこれ以上弱みをみせる訳にはいかない。
ジルモンドにはジルモンドなりの信念と守りたいものがあったのだろう。
そこに、レクシオンが入っていなかったことがとても悲しいけれど。
いつか、すれ違い、傷つけあった過去が、優しい気持ちで思い出せるように。
たくさんの傷を、これからの時間で癒すことができるように。
生きているから、それができる。
過去を生き直すことはできなくても、過ちを認めて、これからを選びとることはできる。
「エリネージュ王女……感謝する」
「お礼はまだ早いですよ。私の正念場はこれからですから」
グレイシエ王国へ帰る。
それだけでぐっと気持ちが重くなる。
しかし、父は言っていた。
母がまだ生きている、と。
レクシオンたちの姿を見て、エリネージュも母のぬくもりが恋しくなった。
もう一度、取り戻すことができるのならば。
(私も、自分の気持ちをお母様に伝えたい……)
娘として、愛してほしい、と。
そして自分も、母に愛を伝えたい。
求めるばかりで、返せていなかった。
「リーネ、お待たせ」
大事なことに気づけたのは、エリネージュを愛してくれた人がいたから。
「もういいの?」
「あぁ。リーネはいつも僕に幸せをくれるね」
「そんなことは」
「リーネがいてくれなければ、僕はいつか死を選んでいたと思う。生きる意味をくれたんだよ。幸せになりたいってリーネに出会って初めて思えた。だからね、僕も君が生きる意味になりたいんだよ」
エリネージュを見つめて、幸せそうにレクシオンが微笑む。
眩しくて、きれいで、優しい、大好きな笑顔。
ときめきよりも、何よりも、愛おしさがあふれてくる。
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