<閑話>

 グレイシエ王国は今、かつてない危機を迎えていた。

 年中、冷たい気候であるので、雪が降るのは珍しくない。

 しかし、街中を白く覆うほどの雪というのは見たことがなかった。

 火の魔法であたため、一時的に雪を溶かしたとしても、また白く降り積もる。

 魔力量が少なく、魔法が不得意な庶民たちは、凍えていた。

 グレイシエ王国の領土は大陸のほんの一部。

 貴族のほとんどは領地を持たずに王都に住む。

 そして、この現状に女王への進言を毎日のように上げていた。


「女王陛下、あなた様ほどの魔力の持ち主であれば、王国を救えるはずです」


 今日もまた一人、女王ユーディアナへの謁見で直訴する者がいた。

 ユーディアナは冷ややかにその男を見つめ、ため息とともに口を開く。


「これは、自殺したエリネージュ王女の呪いであろう。わたくしも、王女の呪いを解くために今、力を尽くしておる。これ以上の無駄な進言は不要である」


 死んだと公表している王女が実は生きていることを、一部の人間は察していた。

 女王は素知らぬ顔で、すべてはあの美しき雪の王女によるものだと責める。


「……エリネージュ王女は、生きていらっしゃるのでは?」


 誰一人として、女王に直接口にすることはなかった言葉を男は平然と言ってのけた。

 そして次の瞬間、謁見の間から地下牢へと落とされていた。


「消そうとしても、無駄ですよ。エリネージュ王女こそが、この国の女王となるべきお方なのだから」



 それは運命で、必然で、事実だ。

 エリネージュが生まれ落ちたその瞬間から決まっていた未来。

 どれだけあがいたところで歪めることなどできはしないだろう。


 そして、自分を殺すことができないのもまた、事実である。


 先代女王マリエーヌの夫であり、エリネージュの父――ブライト・ワイトリーは冷たい牢獄で口元に笑みを浮かべた。


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