第17話 外道

 ビルの下、生活に血を吐く外道げどう大道だいどう、大通りに血路。仮装しそれらしく見せるアスファルトにくず、残りカス。そんなもので固まった堅い道を進む。


 化粧の街に、また帰路につくひと、出向くひと、各々居るがみな、忘れてきたのか影は引かない。の闇が消す。行くも帰るもさよならの道。街路樹はそっと若葉を開き、夏の夜風を予想させる目算もくさんでそよいでいるが、まだ梅雨だ。思惑はまだ誤算。早すぎる。まだ早すぎる。


 重く厚いビルの足下、花車きゃしゃな店舗の店子たなこが声を掛けるが、共に金欠で、同じ金欠が金穴きんけつを探し回ったとて詮が無い。しかしそんな絡繰からくりでしか街は回らない。街の動力はそんなひとの火力で、欲の業火、いのちのいさり火。その身を互いに入れ替えればいいのだが、金の位置も火のさがもさほど変わらないので、やはり堂々巡りに回っている。

 街が汗をかく。


 上には上がいて下には下がいるのがビルの定め。上がり下がりはエレベーターの仕事だが、上昇、下降かこう牡丹ボタンの花を、そんなに信用する分けでもあるまいが、しかし押さなければお前は動かない。ひとの浮力もそんなもので、それでは生涯、動きはしないと牡丹がかす。手に汗をかく。

 押せ。

 上でも下でもいい、押せ。手の汗は一切関係ない。


 華やかで贅沢なはずだった大通りも、辿り着いてみれば夜になっており、また目算が外れたか、誤算だったか、陽が傾いただけかは知らないが、ただ装飾の光とさび店子たなこ、そのうえ生活に引きずられ倒れる者もいるようだ。ただ位置が変わっただけで、自分はなにも変わらない。ビルの上。


 ここはそとの道か、いずれにしても道の外、あと一歩手前。上でも下でもいい、押せ。手の汗は一切関係ない。

 屋上から見下みおろす、見下みくだされた街。皆みなさよならの道しか歩けない。




(続く)



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