特別編
特別編 11月7日(いいおなかの日)
なんか、書きたかったんです(許して)
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とある秋の日の午後。
マンションの一室。そのリビングにて。
具体的には、祐樹は積み本崩し、瑞菜はスマホ弄りである。祐樹としては本当なら遠野から神ゲーだと聞いているエロゲをやりたいところなのだが、瑞菜がいるところではさすがにやれまい。彼女がいない時間にコツコツやるとしよう。
それはそれとして、祐樹は本を片手に持ちながらキモチは非常に浮ついていた。
「なあ瑞菜。今日は何月何日だ」
「んー? えっと、……11月7日だね」
スマホのカレンダーで確認したのだろう。数秒のラグを経て瑞菜が答える。
「そうだ。11月7日だ」
「うん。そうだねー」
「11月7日なんだ」
「だからそうだねーって。それがどうかしたの?」
「11月7日はな、いいおなかの日なんだ」
「11月7日、いい、おなか……あ! ほんとだ! すごい!」
ソファーに寝ころんでいた瑞菜は感激したようにパッと起き上がる。
「だろ? つまり今日は美しいおなかに神が宿る日だ。そんなおなかを讃え、崇め奉るために今日という日はある」
「え……それはちょっと違うような……? いやでもそうなのかも……?」
「とにかく、いいおなかに出会わなければ今日という日は終われない。この意味がわかるか?」
神妙に、祐樹は問いかける。
すると瑞菜は少しずつその意味を理解したのか、顔を赤らめて恥ずかしそうに俯いた。
「えっと……それはその……もしかして、え、えっちのお誘いでしょうか……」
「はあ!? ば、バカ違うわ! こんな真昼間からそんなこと言うかアホ!」
「ふぇ? ち、ちがうのっ!?」
驚きと共に、少しだけ残念そうな表情を覗かせる瑞菜。
もしかしたら祐樹は返答を間違えたのかもしれない。
(肯定してたらこの時間からずっと……? いやいかんいかん)
今日の目的はそれではない。違う。本当に違うのだ。
祐樹は吐き捨てるように呟く。
「このビッチめ」
「ち、違うし! 違うもん! ビッチなわけないでしょ! だ、だだだだってわ、わたしがえっちするのはたった一人だけだもん……一生、ゆうだけだもん……」
「じゃあ単純に変態。年中発情女」
「ゆ、ゆうが冷めてるの! わたしがおかしいんじゃないもん!」
ふんっと瑞菜は顔をそむける。
さすがに言いすぎただろうか。
べつに祐樹が冷めているということはない。ただ、瑞菜と付き合い始めて早4カ月。求めてくるのは大体において彼女の方。えっちへの誘い方なんて祐樹には分からないし、どうにも素直になれないのだ。
冷めているなどどいうことはなくて、本当はウブなりに積極性を見せてくれている彼女に甘えているだけなのであった。
「まあそれは置いておいてだな。今日はそういうことじゃないんだよ」
「じゃあ、どういうことなの?」
「ただ、おなかを愛でたい。今日はそういう日だ」
「うええ、なんかその方が変態っぽくない?」
「ない。これはただただ純粋な感情だ。人はみんなその腹から生まれるんだ。そこを恋しくなって、愛でたくなるのは当然の感情だろう?」
「余計に気持ち悪く……。ていうか、なんか恥ずかしいよぉ」
「ああ? なんで?」
「だって、……えっちするわけでもないのにお腹見せるなんて……それに絶対たくさん見るし触るでしょ?」
「そりゃな。目にも手にも焼き付ける」
「うぅ……」
「数か月前、勝手に見せてきたおまえはどこに行った」
「あ、あれはわたしも必死だったの! 黒歴史なんだから忘れて!」
「なら見せろ。それでたぶん上書きされる」
「うぅ……やっぱりはじゅかしい……」
瑞菜はぐいっとTシャツの裾を掴んで伸ばしながら俯く。これはこれでなかなか良い光景と言えなくもないのだが、やはり今日の趣旨とは異なる。
と、そのとき、
「呼ばれて飛び出て夢乃ちゃん! そういうことなら私のおなかを思う存分愛でてください! 美少女の引き締まったおなかですよ!」
突如出現した小暮夢乃がその勢いのままぺろんと服をめくっておなかを見せつけてくる。
「どっから出てきやがった!?」
そしてそもそも呼んでない。話題にすらしていない。
「まぁまぁそんなことはどうでもいいじゃないですかぁ。それよりどうです? 私のおなか。けっこう自信あるんですよ?」
「うっ……いや、その……」
最初の一瞬目に入った以外は必死に目を逸らしていたのだが、自然と視線が惹きつけられてしまいそうになる。
(一瞬だけ見えたあのおなか……あれはまさに……)
神のおなか!
なのかもしれない。それほどの衝撃が祐樹を襲った、ような気がした。
(もう一度見たい。ああでも俺は、俺は……~~~~~っ!)
「だ~~~~め~~~~!」
瑞菜が叫ぶ。
「きゃ。びっくりしたぁ。瑞菜、近所迷惑ですよ?」
「防音は完璧だから大丈夫! って、そうじゃなくて! 夢乃はさっさと帰りなさ~~~~~~~~~~い!!!!」
「わ、わわっ。ちょ、瑞菜、押さないでっ。押さないでったら! このままじゃおなか出したまま外にでちゃう!? 痴女になっちゃうからぁ!?」
「不法侵入に慈悲はないから!」
慌てて服を整える夢乃をぐいぐいと玄関まで押していく瑞菜。
部屋から押し出される直前、夢乃がこちらへ叫ぶ。
「祐樹くん! 私、瑞菜がおなかを見せたがらない理由知ってますよ!」
「なっ!? 夢乃!?」
「今回は特別に教えてあげます! 実は瑞菜、最近太って――――」
「わー! わーわーわーわー! さっさと出てけー!」
バンっと玄関の戸が閉められた音がする。
そしてそさくさと瑞菜が戻って来た。
「……聞こえた?」
「まぁ、聞こえたな」
「うぅ……」
「太ったのか?」
「……うん。で、でもちょっとだけ! ちょっとだけだよ!? その……最近お料理も結構できるようになってきたでしょ? だから嬉しくて、作りすぎたり食べすぎたりすることも多くて……」
「まあたしかにそれはあるなぁ」
「それに秋だし! ご飯が美味しい!」
「なるほど」
言い訳を並べていく瑞菜。
祐樹としては少し上の空で、だから最近えっちするときは真っ暗闇だったんだなーとか無駄な納得をしていた。
「別に気にしないって。少し太ったくらい」
祐樹は真に好きなのは瑞菜の身体ではなく瑞菜なのだから。
それが瑞菜のものであるからこそ、その顔も、胸も、お尻も、そしてもちろんおなかも、たまらなく愛おしいと思うのだ。
しかしそれは男性側の言い分らしい。
「わたしが気にするの!」
「でもなあ、俺は瑞菜のおなかが見たいんだけどなー」
ちらと瑞菜の身体を見る。
その瞬間どこからか「瑞菜が見せないなら私が見せますよー」と思念が飛んできた気がした。
それを瑞菜も感じ取ったらしい。
「うぅ……ちょ、ちょっとだけだからね? ほんとに、ちょっとだよ? 触るのはなしね?」
「わかった。ありがとな、ワガママ聞いてくれて」
「ううん。いつもわたしばっかりわがまま言ってるから、いーよ」
そうして瞳を潤まつつも微笑んだ瑞菜はゆっくりと服をめくった。
その先にはいいおなかの日に相応しい神の光景が広がっていたことだろう。
その後、気持ちが昂った二人が致したことなど言うまでもない。
それはきっと深夜、あるいは朝までもつれこみ……
「って、私はなんの妄想を膨らませてるの!?」
ひとり、マンションの外へと放り出された夢乃は自問自答する。
「ふーんだ。ふたりなんて腰が痛くて立てなくなっちゃえばいいんです」
それで学校に遅刻して。変な歩き方をして。みんなに笑われてしまえばいい。
そんなことをつらつらと考えながら夢乃は行きつけの定食屋を目指した。
敗走後のヤケ食いである。
「ま、私は瑞菜と違って太ったりしませんけどー」
生まれてこの方、ダイエットなどしたことがない。スタイルにも恵まれている。それならそこをもっと磨いてみたらどうだろう。
今度こそ、祐樹を悩殺できるかもしれない。
「今日だけは、お二人で楽しんでください」
今回はお遊び程度。太ったことをバラせたので憂さ晴らしにはなったし良しとしよう。いちいち落ち込んでなどいられない。
まだまだ、できることはいくらでもある。時間だってたっぷりだ。
夢乃の闘いはまだまだ続いて行く。
ビッチなはずの幼馴染が純愛厨の俺と一夜を共にしてからヤケにウブ可愛い。 ゆきゆめ @mochizuki_3314
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