第51話 魔法が解けなければいいのにね。
遠野と別れた後、3人で過ごす時間は案外穏やかなものだった。
俺が遠野と話している間に何かあったのだろうか。アトラクションに乗る時も、二人は譲り合う姿を見せた。
そして夕日が美しく輝き始めた頃。
「さて。私はそろそろ帰ります」
「あれ、もう帰るの?」
「はい。お母さんがご飯を作ってくれていますし。お勉強もしないとですからね」
「そっか」
「瀬川さんも勉強しないと留年してしまいますよ? 私とはダブルスコアくらいつくんじゃないですか?」
「そ、そんなことないし!」
「ふふっ」
最後にまた瑞菜をからかう様子を見せた小暮は「では」と俺たちに背を向ける。
「祐樹くん、次に会えるときを楽しみにしています」
「……おう。じゃ、また」
柔らかく笑って、彼女はひとりで去った。
「ど、どうしよっか。わたしたちも帰る? テスト心配になってきた……」
「何をいまさら。少し早く帰ったところでおまえの成績は上がらねえよ」
「うぅ……」
「ほれ、行くぞ」
小さなその手を取って、俺は夕暮れのディゾニーランドを歩き始めた。
「うま~」
とあるレストランにて。俺と瑞菜は夕食を取っていた。せっかくの夢の国だ。ディナーは少し豪華に俺はローストチキンを、瑞菜はフランクステーキを頼んだ。
瑞菜は満面の笑みでステーキを口に運んでいく。
「幸せそうに食うよな、おまえ」
「……? そう?」
不思議そうに、瑞菜は首を傾げる。その頬にはステーキのソースが付いていた。俺はハンカチを取り出し、手を伸ばす。
「ソース付いてるぞ。ほれ」
「んんっ……」
「よし、取れた」
「あ、ありがと……」
「どういたしまして」
少し恥ずかしそうに、瑞菜は顔をそむけた。
わざわざ拭いてやる必要はなかったかもしれない。乙女的な何かを傷つけてしまったようだ。
しかし幼馴染のご機嫌の取り方なら知っている。
「俺のチキン、食うか?」
「いいの!? 食べる!」
「じゃ、そっちのと一口ずつ交換な」
「うん!」
チキンを頬張る瑞菜はやっぱり幸せそうで。
見ているだけでも口元が緩んでしまう気がして。俺は気づかれないように交換したステーキを口に運んだ。
夕食が終わればもう、このデートも終わりだ。夢の国の一日が終わろうとしている。
いつでも、だれでも、どんな心境であろうと、訪れたみんなに魔法をかけてくれる夢の国。幸せ溢れる、夢の場所。
だけどやっぱり、夢は夢。魔法は魔法。
幸せな時間は長く続かない。幸せの後には不幸が。不幸の後には幸せが。そうやって人生の辻褄は合わせられていく。
それなら、この後に来る時間は。
そこにいる誰かに幸福を用意できるのはきっと、他でもない俺だけなのだろう。
次の瞬間、夜空に大きな大きな花が咲いた。
次々と、花火が打ちあがっていく。
これが夢の終わり。その証だ。
「キレイだね」
「ああ」
「ほんとに、キレイ。ずっと、このままなら……、魔法が解けなければいいのにね」
俺は小さなその手を握りながら、愁いを帯びた横顔だけを見つめていた。
~~~~~~~~
次から、ラストエピソードになります。
ですが明日(もしかしたら明後日も)は更新を休ませてください。
この先は最後まで書ききって、納得してから更新したいので。
それでは最後までどうかよろしくお願い致します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます