第12話 な、何でもないっ。
「………~~~~っっ」
休憩にお茶を持ってきてやると、なんとなく
というか、ふつうに飲み物あるじゃねえかよ。昨日の会話は何だったのか。
少々問い詰めてやりたくもあるが、まずは目の前でぷるぷるしている幼馴染が気になる。
「……どうした?」
俺は聞きながらお茶を入れたコップを差し出す。
それを瑞菜は目を伏せながらそっと受け取った。表情はピンクラベンダーの髪に隠されてしまっているが、心なしか頬が赤いように見える。
「な、何でもないっ。ありがと……」
「……おう」
多少の疑問を抱きながらも、俺はとりあえずソファーに座って自分のお茶を飲む。
自分でついだお茶って素晴らしい。安心して飲める。もう二度と瑞菜には飲み物をつがせない。
それから、しばしの沈黙。向かいの瑞菜はお茶を飲む様子もなくもじもじと膝を擦り合わせ、何かに耐えるように身体をよじらせている。そして時たま漏れる色っぽい声と、熱い吐息。
(……なんか、エロいんだけど?)
このお茶にまで何か入ってるとか言わないよな? いや、そもそも瑞菜はまだお茶を飲んでいない。
心のふちでそんなことを思いながらも、今の俺は至って平静だ。昨日と同じ轍を踏みはすまい。
「いや、ほんとおまえどうしたの? 明らかに何でもあるだろ」
俺はもう一度問いかける。
もしかしたらまた「初めて」を失ったことに起因するのかもと思ったが、今は何もしていないのにも関わらず辛そうな状態だ。見てみぬフリをすることもできないだろう。
しかし瑞菜は顔を上げると、藍色の瞳に涙を浮かべながら俺を睨んだ。
「だ、だから、何でもないってばあ……っ」
「何でもあるようにしか見えないから聞いてんだっつの。はやく言え」
「うぅ……いやぁ……」
それでも瑞菜はいやいやと首をふり拒絶の姿勢を見せる。
いや、何? 今の俺は単に心配してるだけなのに、なんでイジメてるみたいになってるんですか?
でも、こうなったらもう後には引けない。意地でも聞き出してやる。
俺はソファーにだらんと背中を預けて、わざとらしく口を開いた。
「あ~、同居初日から俺には言えない秘密があるのか~。はぁ……こんなんじゃ安心して住めないなあ~。もう帰っちゃおうかなあ~」
言うだけ言うと俺は立ち上がり、瑞菜をちらと一瞥して背を向ける。
が、その直前で瑞菜が狙い通りに俺を呼びとめた。
「ま、待ってっ。それはダメ……ダメなのぉ……」
「いやでも、これじゃ瑞菜のこと信用できないし? 家に帰ればろくでもない両親と思春期真っ盛りの妹がいてくれるし?」
あれ? 帰る理由もとくにないな? いっそ一人暮らしがしたい……。
「い、言う。言うから……だから帰らないでぇ……」
「お、ほんとか? ならはよ言え? すぐ言え? 今すぐ言え? 俺の気が変わらないうちに!」
演技は効果覿面だったようで瑞菜はすがるように上目遣いで見つめてくるが、俺はそんなことは気にせず瑞菜との距離を詰めて迫る。
すると瑞菜は逃げるように俺から目を逸らしつつも口を小さく開く。
「……っこ」
なんて?
俺が首を傾げると瑞菜は真っ赤になりながら「うぅ~~~~……っ!」と悶え、それから意を決したように顔を上げる。
ピンクラベンダーの髪が目の前で揺れ、藍色の瞳が俺を捉えた。
そして、瑞菜は勢いのままに叫ぶ。
「お、おしっこ……っ」
「……は?」
「おしっこ……したいのぉ……っ!」
いや、勝手にしろよ……。
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