第55話 たまには別視点で06
「はー」
「あう……」
私はお兄ちゃんに抱かれました。
「幸せ」
お兄ちゃんはうっとりと呟きます。
「お兄ちゃんは……」
「何でございましょ?」
「私を……好きすぎです……」
「可愛い!」
ギュッと更に抱きしめられます。
本当に好きすぎな御様子で。
お互い裸。
今はお風呂に入っています。
お兄ちゃんに髪と体を洗ってもらいました。
お兄ちゃんは隙あらば私とお風呂に入りたがります。
…………嬉しいですけど。
セクハラかもしれませんが私も嫌じゃありません。
お兄ちゃんは何時だって私の味方です。
だから恐くありません。
唯一心を開ける他人。
たった一人の理解者なのですから。
別に自意識過剰の意味で言っているわけでもありませんけども……しかしながら不安もジクジクと痛みまして。
ちょっとの不安というヒビは心のダムを決壊させかねない……とでも申しましょうか。
「お兄ちゃんは……私の……何処が……」
「全部!」
即答。
即断。
そして即決。
「誤魔化され……ないよ……?」
「本音なんだけどなぁ」
ポヤッと答えられました。
本当に何でも無いように兄さんは私を愛でます。
それほどの価値は私には無いはずなのに。
けど其処を否定すれば、兄さんの感性をディスることになって。
あー……負のスパイラルがリングワンデルング。
「じゃあ……一番好きな……場所は……?」
おっぱいとは言わないでしょう。
「精神性」
「…………」
端的。
かつ本音。
それは私にだって分かりました。
自分のことが嫌いな私にでも。
――精神性。
私の最も未熟な部分。
私が持つテーゼ。
引きこもりで、臆病で、人間不信で卑屈。
おおよそ文明人としては有り得ない未熟さで、お兄ちゃんを困らせている原因でもある。
「皮肉……?」
「本心」
軽やかに言われます。
其処に嘘が無いのは…………既に知っていますけど、お兄ちゃんは本当にそれで良いの?
「臆病で……人見知りで……内弁慶だよ……?」
「純情で澄み切ってガラス細工」
言い方や表現にも色々あります。
「何より愛らしいのは僕だけに心を許していること」
――特別だと思える。
そうお兄ちゃんは言いました。
「あう……」
それが嬉しい。
すっごく嬉しい。
お兄ちゃんの特別になれるなら、それは私の本懐でもあるんじゃないかな?
「じゃあ……ラピスお姉ちゃんは……?」
「そりゃ好意的だけどさ」
ルリズム。
業の深いこと。壕の深いこと。
「お兄ちゃんは……私を重荷に……思わないの……?」
「人の一生は重荷を負うて、遠き道を行くがごとし」
「……?」
「急ぐべからず。不自由を常と思えば不足なし」
?
「重荷を背負うことと苦痛を感じることは違うよ」
クシャリと頭を撫でてくれます。
「重い分だけ愛おしい」
「にゃ……」
そう言われると照れます。
「可愛い」
むぎゅー。
強く抱擁されました。
お兄ちゃんの体温を感じる。
ちょっと発情するのは乙女の業か……あるいは妹の業か。
「チューしていい?」
「いいですけど」
「いただきます」
カプッと首を噛まれました。
チューと吸われます。
噛み痕が首に出来ます。
お兄ちゃんの物……との証。
――どれだけ私のことが好きなんでしょう?
「大好きだよ」
参っているそうです。
「お姉ちゃんと……寝てるんだよ……?」
「だね」
「エッチなこと……」
「してない」
「しなくて……いいの……?」
「今のところはね」
どこで性欲を処理してるのかな?
少し不思議。
「お姉ちゃんのことは……好きなんだよね……?」
「それはもう」
宰相閣下。
カラカラと笑う国王陛下でした。
「憂き世にて……さりとて人の……想う物……」
「ただ一つあれ、他に成るべし」
私とお兄ちゃんとお姉ちゃん。
私を全肯定してくれる存在。
その有り難さが身に染みる。
それは奇蹟と呼ばれる幸福なのでしょう。
……お兄ちゃん萌え。
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