第54話 たまには別視点で05


「兄さん!」


 期末考査。


 私は既に終えていました。


 テストを個室で受けて百点満点。






 ――完。




 そんなわけで少し国連と話をしていき、今日は帰りました。


「御苦労様」


 兄さんはカレーを作りながら苦笑です。


 兄さんのカレーは美味しいですからね。


 妹愛のこもった料理は、妹のハートを錆び付いたマシンガンで……ですよ!


「問題教えましょうか?」


「考査の意味がなくなるでしょ」


「ズルも手段の一つですよ?」


「別にこんなことで危ない橋を渡るのが怠いってだけだよ。露見した場合のリスクに見合うリターンだと思う? 好成績」


「にゃ~」


 鳴いてしまいます。


 変なとこで律儀です。兄さん。


 それもまたストイックで良い感じですけど。


 どんなに兄さんでも愛してしまえる。


 それが私の制約と誓約。


 おかげで毎日が薔薇色です。


 兄さんは薔薇より美しい。


「ではせめて勉強を」


「復習は四谷とやってるよ」


 あのビッチと?


「機嫌が目に出るね」


 苦笑してしまう兄さんでした。


 こっちの兄さんは実感が湧かないのでしょう。


 無理もありませんけど、あの女にだけは兄さんは渡しません。


 なので、


「ビッチは嫌いですから」


 そんな言葉も出たりして。


「仕方ないと思うけどね」


「兄さんは本当にお優しいです」


「ソレも違うけどね」


 苦笑。


 どこか枯れた笑み。


 兄さん持つ処世術。


「期待は少ない方が傷つかないから」


「ぐ……」


 そこら辺を救いたいのですけど。


 そのための司馬ラピスです。


「それにしても絵になりますね」


「何が?」


「エプロン姿です」


 兄さんのチェックのエプロンは勝負服。


「裸エプロンが良かった?」


「是非!」


「ジョークです」


「知ってます! が、あえて! お願いします! あと撮影の許可を!」


「誰得?」


「私得!」


「さいですか~」


 呆れられました。


 炊飯器の主張。


 米が炊けたようで。


「ラピス」


 はいはい?


「ルリを連れてきて」


「あいさー」


 そんなわけでもう一人の私の部屋へ。


「ルリ。御飯ですよ」


「あう……何……?」


「兄さん特製カレーです」


「あう……」


 おずおずと出てくるルリでした。


 少しだけ……面白くありません。


「ふ」


 明鏡止水。


 嘆息します。


 それから私たちは兄さんのカレーを食べます。


「ほぅ……」


 美味しいです。


 愛があります。


 胃袋をつかまれております。


 愛と云う名の旨味成分。


 うーん。


 兄さんの妹で幸せ。


 幸福の過剰摂取。


「駄目になりますね」


「大げさ」


 兄さんは苦笑しました。


 十割本気なのですけど。


 覚っているのかいないのか。


 どちらもありそうな兄さんです。


 シュレディンガーさんも真っ青。


 いいんですけどね~。


「手伝えることはありませんか?」


「十分報われてるよ」


 穏やかに笑います。


 この笑顔が私は大好きです。


 兄さんは常に司馬ルリの味方。


 傍に居るだけで第一種永久機関と為す、神の御業を具現する。


 きっと兄さんは太陽で、月を思って暖めてくれるのでしょう。


 きっと私も過去の私も、そんな兄さんだからこそ、愛して止まないはずです。


「あう……お姉ちゃんは……凄い……」


「ルリだって未来で私になるのですから」


「なれる……の……?」


「さて」


 これから次第じゃないでしょうか?


 ちょっとトラウマ。


 兄さんの方を見ると、何とも言えない笑み。


 妹に殺された――なんて口が裂けても言えない優しさを兄さんは胸に秘めています。


「あう……」


「はいはい」


 兄さんがルリの頭を撫でます。


 それほど妹が可愛いようで。


「にゃごう……」


 借りてきた猫のように大人しく。


 ま、私でもそうなります。


「兄さん?」


「はいはい?」


「私にも!」


「はいはい」


 そんなわけでルリとルリとが兄さんにナデナデされました。


 至福。


 幸福。


 天国は此処にありましたか。

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