第53話 たまには別視点で04
「司馬ってさ」
期末考査の最中。
あたしは司馬と図書館にいた。
司馬さんは今日も何処かでデビルマン。
一応、試験勉強をしているわけだけど、何にせよ司馬を独り占めしているのは、ちょっとした優越感。
司馬さんとかアートとかは、ちょっと邪魔っ気な感じ。
「司馬さんと付き合ってるの?」
「家族」
端的に言われた。
事情は知ってる。
司馬の御両親は無くなっているのだ。
「それはわかるけどさ」
両親を失った司馬。
そにおける家族の有り難さは、あたしでは想像が付かないだろう。
けれども、
「ガチじゃない?」
「まぁ綺麗だよね」
躊躇もなく評する。
こんなところが司馬にはある。
褒めるのではなく、端的に事実を捉える。
時に詩的で恥ずかしい論評もあるけど、こやつに持ち上げられると悪い気はしないのも純朴な乙女心と呼べるモノでもあり。
それは司馬さんも同じだろう。
そして……たしかに司馬さんは綺麗だ。
華やかで目立つ。
白い髪も赤い目も特徴として突出してる。
だから司馬は惚れそうなもんだけど。
「……………………」
「何か?」
「この問題だけど……」
「――――」
さらさらと解いて解説してくれる。
物理学はよう分からん。
しかもこれで時代後れという考えがね。
古典物理学。
ニュートンさんは偉大だ。
さりとて思うは別のこと。
司馬。
司馬軽木。
――本当に此奴は。
辛いはずだろうに。
道化を演じて誰にも笑顔を見せる。
少しは頼ってくれても良いのに。
司馬さんが来る前は、学校辞めて働くとか言い出すしね。
「結局付き合ってないのね?」
「今はね」
「保留? キープ?」
「どっちが、かな?」
「……………………」
まぁ司馬さんの方も憎からずはあろうけども。
アレは恋する乙女の顔だ。
血は繋がっていないようで、何かとスキンシップ過多。
少しくらいパイオツが大きいからって……。
「ていうか何であたしはビッチ?」
「さて」
「何か聞いてない?」
「さぁて」
――聞いてるな。
その上で言わないのは道化性か。
はたまた気遣っているのか。
何かしらの根拠は、司馬さんの方にはあるんだろうけど、司馬には誤解して欲しくないのも確かな事実…………ていうか勘違いされたくない。
シャーペンを奔らせながら、忠告を一つ。
「……あのさ」
「何か?」
「……ちなみに……処女だから」
「知ってる」
サラリと流された。
サラサラとシャーペンを奔らせる。
勉強の効率化。
司馬さんやアートと並べるべくもないけど、司馬も結構勉強の努力性は裏切らない類だったりして。
けどさぁ。
乙女が意を決して「処女だ」って告白したんだから、もうちょっと反応が欲しくもあって。
乙女心はままならない。
「アートはどう思うし?」
「ラピスとしては一考の余地在りしみたいよ?」
司馬がどう思うか。
ソレを聞いたんだけど。
「何か?」
黒塗りの瞳孔に慈しみが映る。
ブラックパールの想起。
穏やかで凪のよう。
「美少女に好かれるよね」
「有り難いことに」
ほんと道化。
「自画自賛も珍しいけど」
「?」
?
「素で言ったのか」
何かを頷くようにコクコクと首を揺らし納得。
天井を見上げてホフッと吐息をつく司馬。
「何がよ?」
「四谷も十分美少女なんだけど」
「っ!」
吹いてしまった。
「何で驚いてるのさ?」
怪訝な顔をしている司馬に一発殴り込みたい。
「び」
「び?」
「美少女って」
「モテるでしょ?」
「うぅ」
そりゃそうだけどさ!
何であっさり言うのよ。
あたしが眼中に無い系?
「筆止まってるよ?」
「誰のせいだし」
「知らないけど」
さらさらと司馬はペンを走らせる。
「…………は~」
この男は……もう……本当に……。
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