第52話 たまには別視点で03


「司馬ー」


 あたしは司馬に声をかけた。


 あたし……四谷大河は司馬のクラスメイトだ。


 そして彼は、あたしの想い人でもある。


「何?」


 司馬がこっちを振り返る。


 虚ろな瞳に研磨の痕があった。


 ジクリと何かを感じる。


 いいんだけど。


 いや、良くはないか。


 昨今の破天荒さを鑑みれば、司馬だって気苦労は多いだろう。


 別に司馬のせいでもないんだけど、でもだからこそむしろ尚更心配ではある。


「喫茶店にでも寄らない?」


「いいけどさ」


「司馬さんは?」


「地球の何処か」


 あー…………。


 色々大変そうだ。


 ていうかテロリストだけど。


 普通に世界を滅亡できそうな力を持っておきながら、やることが司馬のためという名の暴力。


 責める気は無いわけじゃないし……ちょっとどうかとは思ってしまうよね……普通に考えて。


 あれ? あたしだけ?


「久遠」


 司馬が久遠にも声をかける。


「よ。何か?」


「茶店に行こうって話なんだけど。何時もの三人で」


 そうだよね。


 何時もの三人だよね。


 あたしたちは此処から始まった。


 ラピスもアートも後付けだ。


「構わんぞ?」


「じゃ、三人で」


「アートは?」


「さあ?」


 既に席にはいない。


 規格外で言えば中々のものだ。


 財閥って言われてもピンとこないけど、いわゆるお金持ちの御令嬢らしい。


 なにやら政治談義を司馬さんとしている。


 あたしにはさっぱりな内容でもあった。


 ま、やることなすこと沢山あるのだろう。


 それに居ても邪魔だ。


 司馬と久遠とだけ一緒にいて駄弁ることが出来れば、あたしにはそれでいいと思えるし。


「じゃあ何時ものメンバーだな」


 久遠がそう言った。


「ラピスが来てから混乱だったからね」


「だし」


 同感。


 そして帰路近くの茶店に。


 あたしは抹茶オレ、司馬はコーヒー、久遠は紅茶を頼んだ。


 互いの香りがせめぎ合って、けれどそれが不快じゃない。


 きっと司馬の持つ空気のせいだ。


 穏やかな雰囲気をこいつは創る。


 ちょっと目にしない特異性。


 恋心がフィルター掛けているのかも知れないけど、こっちは乙女なので、しょうがないっちゃないんだよね。


「テスト勉強してるし?」


 あたしは学生らしい事を聞いた。


「そこそこ」


 と司馬。


「あまり」


 と久遠。


「司馬さんは?」


「そんなレベルじゃないでしょ」


 ご尤も。


「アートもそんな感じだよな」


「だね~」


 コーヒーを飲みながらホケーッと司馬。


「あっしら何で付き合ってんだろ?」


「覇王陛下だから」


 へへー、と恭しく久遠が頭を下げる。


 無論皮肉だ。


「なんか三人での普通が消えるし?」


 ラピスが司馬を独占しているみたいで面白くない。


 そりゃアレだけの美少女でアルビノとくれば、嫉妬の二つや三つはする。


 実際可愛いし、学院でアイドル扱いもされてるけど。


「いいんじゃない?」


 肝心の司馬がそう言った。


「何でよ?」


 言葉に少し険が混じる。


 ラピスを大切にする声音は、あたしにとって不快そのものだ。


「ルリズムだから」


「るりずむ?」


「何でもにゃ」


 コーヒーを一口。


 それ以上を語る気も無いようで。


「しかし期末考査か」


「だしょー」


 やってられん。


 勉強とか悉く滅び尽くせばいい。


「とか言いつつ俺ら赤点組でもないよな?」


 久遠の正論。


「一応ね」


「だね」


「比較する相手が間違ってるよな」


「だし」


「ラピスはインタフェースだからね」


「それが意味不明だし」


「事実は事実としてあるんだけどな」


 ポヤッと司馬。


 あたしには理解できない。


 そもそもレコードとか言われても……何よソレって話にならない?


「結局司馬さんは何なんだ?」


「宰相閣下」


 即断。


 双眸を細め、コーヒーを飲みながら端的に司馬は答えた。


「妹さんのお姉さんだしょ?」


「だね」


 苦笑の中に自嘲が混じっていた。


 ――何故よ?

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