第50話 たまには別視点で01


「あう……」


 私こと司馬ルリは引き籠りです。


 ついでにコミュ障。


 なお人見知り。


 面倒くさがりで、やる気が無くて、卑屈。


 およそ最低の人間です。


 学校にも行っていません。


 けれどお兄ちゃんはそんな私を愛してくれます。


「可愛い」


 と。


 ルリズム。


 なんのことやら分かりません。


 けれどお兄ちゃんに抱きしめて貰えるとポーッとしてしまいます。


 お風呂に入って暖まる感触に近いでしょうか。


 ポーッとなります。


 ポーッと。


 幸福。


 両親が死んで、どうしようもなくなった時でも、お兄ちゃんはちゃんと私を愛してくれました。


 普通なら自分の不幸を嘆くはずですのに。


 お義父さんとお母さんが死んだら、残ったのは役立たずの私だけ。


 なのにお兄ちゃんは損な私を見捨てませんでした。


 人が良い……で済むレベルではないでしょう。


 けれどそれがお兄ちゃんで。


 格好良くて優しくて。


 全面的に私の味方でいてくれる。


「それじゃ行ってくるね」


 ニカッと笑うお兄ちゃん。


「行ってきます」


 そしてラピスお姉ちゃん。


 引きこもりの私と違って、お兄ちゃんとお姉ちゃんは、ちゃんと学校に行ってます。


 お姉ちゃん……司馬ラピス。


 私の未来形。


 私自身。


 そして経済的に司馬家を取り持つ大黒柱。


 たまに不正取引の容疑で引っ張られていきます。


 証拠不十分で釈放されるけど。


「にゃ……」


 ヒラヒラと手を振って私はお兄ちゃんとお姉ちゃんを送り出しました。


「ふ……」


 静寂が支配します。


 何時もの私。


 お兄ちゃんたちが帰ってくるのは放課後なので、それまでは一人です。


 寂しいは確かにありますけど、自業自得はその通り。


 部屋に戻ります。


 ありありのココアを飲みながら。


 パソコンを起動。


 ホケーッと待ってデスクトップ。


 掲示板を眺めて今日の王国話題。


 世界制覇王国。


 お兄ちゃんによる、世界征服のための国家。


 そして宰相にラピスお姉ちゃん。


 あれが未来の私と言われても、さすがにピンともポンとも来ず。


 けれどお兄ちゃんにさえ秘密にしている私の事情をお姉ちゃんは知っていました。


 恥ずかしいですけど、そこは「お互い様ですね」がお姉ちゃんの意見。


 南無。


 閑話休題。


 台湾が臣国になったのは賛否両論。


 お兄ちゃんとお姉ちゃんへは好意的な意見が多いです。


 お兄ちゃんは格好良い。


 お姉ちゃんは可愛い。


 そう言われます。


 私の未来形ですから少し照れます。


「あの二人に支配されるなら本望だ」


 というのが支持派の意見。


「単なるテロリストだろ」


 と反論が出ます。


 しかし……テロリストはシステムメギドフレイムなんて持っていないはずですけど。


 世界への影響力。


 エネルギー問題の解決。


 可能性の集約です。


 ラピスお姉ちゃんは。


「けど逆らったら股間をバニッシュされるぞ?」


 それも事実。


 本物になります。


 本当に私なのでしょうか。


 少し疑問。


 いったい何を見て育ったら、私はアレだけ強くなれるのか?


 そこが流石に分からなくて、でも未来なら、私はお兄ちゃんのために行動できるのが嬉しい。


「ぶっちゃけ米国より強くないか?」


 そうなりますよね。


 米国。


 国防総省でも太刀打ちできないでしょう。


「となれば安保も考え直す必要が」


「関税かけられたらどうするよ?」


「ぶっちゃけ別に見つければいいんじゃね?」


「米国孤立させようぜ」


 そんなコメントが多々。


 ラピスお姉ちゃんの凄さがよく分かる。


 しばらくパソコンを弄った後は勉強。


 お兄ちゃんが選んでくれた参考書を読みながらペンを走らせる。


 勉強自体は嫌いじゃない。


 思うところもある。


 けどそれにしたってラピスお姉ちゃんは無い。


 どうやったらお姉ちゃんがあそこまで規格外になるのか?


 永遠の謎。


 んーと、つまり私は私自身に嫉妬しているんだろうか?


「……………………」


 何となくそんなことを思い候ひて、首を傾げます。


 お姉ちゃんも優しいですけど、勘所が分かっているのだから容易いのでしょう。


 ……甘えてるな……。


「あう……」


 さらさらと算数の図形の問題を解く。


 相似。


 似ていると言うこと。


 私とお姉ちゃんみたい。


 そんなことを考えた。


 インターフォンが鳴った。


 ピンポーンと一つ。


 リビングで勉強していた私は二階の自室に逃げました。


 こういうところが引き籠り。


 他者が恐くてしょうがない。


「あう……」


 ――なんとかせねば。


 そうは思うけど難しいのです。

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