第39話 体育祭なんてやってる場合か02
「司馬」
帰ろうとすると四谷が話しかけてきた。
昨今はラピスに振り回されていたので、ちょっと久方ぶりな気もするし、悪いかなとも思ってしまう僕でした(当社比一・三倍)。
実際世界覇王(自称)であれば、近付くだけで迷惑だ。
「何か?」
振り返る。
教科書を鞄に詰めながら。
放課後も良いところで、こっちの怒濤展開はともあれ吹奏楽部の演奏と野球部の声出しに関しては勢力を減じてはいないようだ……オン・シュチリ・キャラロハ・ウンケン・ソワカ。
「えーと……一緒に帰らない?」
「構わないよ」
「司馬さんは?」
「どこか別の国じゃない?」
「有り得ない……と言えないところが……」
そ~なんだよね~……。
「南無三」
印を切る。
実際ワールドジャンプがあるだけ、ラピスの所在は誰にも知られない……ということに相成りますか。
帰ってくるのは確かに我が家なんだけど。
「喫茶店寄ろう?」
「いいけど久遠は?」
「先に帰った」
見れば確かに姿はない。
「じゃあスマホで」
呼び出すべきだろう。
「いや、付き合う気は無いらしいし」
「そなの?」
スマホを見つめて、しばし思案し、ポケットに戻す。
「じゃあ帰ろっか」
そゆことになった。
「結局司馬はどうするの?」
「体育祭?」
「まぁ」
「応援。四谷は頑張ってね」
他に述べようも無く、またフォローのしようもなく。
「応援してくれるし?」
どこか聖夜のサンタクロースに期待するような目で、四谷は僕のブチャイク面を見つめていた。
「そりゃもう」
「本当に?」
「そこは信用して欲しいな」
おどけたように言う。
道化を演じるのには慣れているし、そうでなくとも四谷は親友なんだから応援しない方が嘘だろう。
「司馬は……」
「悪口?」
「だけど」
「どうぞご存分に」
「陛下に失礼じゃない?」
「あんまり実感はないけどね」
覇王と言っても身一つだから目に見える風景が世界の全てだ。
「なんでそんなに司馬さんに優しいの?」
「紳士ですから」
「あたしには?」
「優しくして欲しいの?」
「むぐ」
不満そうな口の噤み方。
「別に無理することもないんじゃない?」
「そゆわけじゃないんだけど……」
「何?」
「何でも無い!」
拗ねている……というかとっさの言い訳の様な口調で……ついでにちょっと声量が大きかった。
四谷が自分の口元を手で押さえる。
「んーと?」
ぼんやりと返す。
帰路を歩きつつ、不審げな四谷の態度を考察していると道草が一軒家として現われた。
馴染みの喫茶店。
カウンター席に隣り合って座り……そして注文。
僕はオリジナルブレンド。
四谷はエスプレッソを。
「質問を返すようだけど……」
注文を終えて、しばしお冷やを飲みながら。
「四谷はドン引きしないの?」
「えと……陛下とか……?」
「だね」
ラピスのお膳立てだけど、僕にだって責任の所在はある。
もしも僕がラピスを追い詰めなかったら現状は有り得ないのだから。
「司馬は司馬だし」
「どっちが優しいんだか……」
「優しくなんてない」
「友達甲斐があるよ」
「嘘っぱちだから」
「何処が?」
「……………………」
雄弁な無言。
少しむずむずと彼女の唇が泳いだ。
何かを言いたいのだろう。
言葉を待っているとコーヒーが来る。
ブラックで頂く。
「苦くないの?」
「苦いけど?」
「中二病?」
「偏に」
「……………………」
ジト目。
話題を逸らされたのは理解する。
――四谷が何を言いたかったのか?
興味はあったけど無理に聞いてもね。
「やっぱり司馬は優しいし」
「何のことやら」
ほろ苦いのはご愛敬。
コーヒーの味か、乙女の情念か。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます