第18話 妹は噂の転校生05


 午後の講義。


 最後は体育でした。


 男女揃ってバスケ。


 体育館を二分割してそれぞれ。


 僕はそこそこに試合をこなし休憩。


 そこでワッと喝采の鳴く。


 ラピスだ。


 パスを受けてから一瞬でドライブ。


 ディフェンスの四谷を抜き去りボールを放る。


 ガコンとリングを跳ねて飛び出るボールを空中で掴み、ゴールに叩きつける。


 一人アリウープだ。


「嘘ぉ……」


 一緒に休憩していた久遠が、唖然としている。


 実は僕も。


 いったいあの『ルリ』から、どう組み立ててれば『ラピス』が出来上がるのか?


 少し気になる。


 男子どころか女子までワーキャー。


 アイドルどころかスターだ。


 なんか百合のほころぶバックビューが見える。


 ラピスの鮮烈デビュー。


 ちなみにラインの共有は僕とルリとだけ。


「…………っ」


 さすがに四谷は悔しそう。


 勉強どころか運動でも負ければ、立場が無いのだろう。


 僕は然程気にしないけど、自己完結の悩みだからこそ、根本は浅くない。


「兄さ~ん!」


 はしゃいで僕に手を振るラピス。


「はいはい」


 ヒラヒラと手を振り返す。


「嬉しそうだな」


「僕が?」


「いや、ラピスさん」


「僕が好きらしいから」


「凝った趣味だ」


 反論できないのが悲しい。


「何かしたのか?」


「主語を付けて」


「司馬はラピスさんに」


「いや、顔を合わせてあまり経っていない」


 現われるや否や警察に逮捕され。


 不起訴の後に転校生。


 どう思えと?


「ラピスさんまで養うとなると結構負担大きいんじゃないか?」


「そだね」


 逆に金銭的事情は解決したんだけど。


 警察も不起訴にしたのだから口座の一兆円はそのままだ。


 いや……これって手をつけていい案件……というか金銭なのだろうか?


 かなりの不安がこみ上げて、真綿で首を吊るような不吉さがヒシヒシとするんだけどその辺どうよ的な……。


「辞めるのか?」


「いや、続けるよ」


「は?」


 そうなるよね。


 僕としても本意ではない。


 不本意というほど強い拒絶感でもないけど。


「脅かすなよ。学校辞めるつもりがないなら先に言え」


「事情が事情なんでね」


「遺産の件か?」


「資産の件だね」


「資産……」


「運用」


 すさまじいインサイダーなんですよ。


 これがまた。


 しかも法律に抵触しないというオマケ付き。


 レバレッジを限界まで効かせて運用し、尚且つ成功すればそりゃ当局に胡乱げに見られもする。


 コナミコマンドでも実行したのかと言わんばかりの不条理。


 マーケットそのものの不審を買う無軌道ぶり。


 あまり詳しくはないので、それが安全弁になっているけど、仮に詳しく知っていたら胃薬が必要だったろう。


「金の問題が解決したとみて良いのか?」


「おきどき」


「ラピスさん……か?」


「ご名答」


 予想は容易いだろう。


 前後即因果だ。


 転校してきた妹。


 資産運用の成功。


 なお万能のラピス猊下とくれば、点と点を線で結べる。


「お姉様ー!」


 女子生徒らまで、はしゃぐ始末。


「なろ!」


「ふっ」


 ブロックしようとした四谷の腕をすり抜けて、天高く馬肥ゆる秋。


 華麗な放物線を描いて、バスケットボールがリングに吸い込まれる。


 所謂プロレイアップ。


 どこまで人外魔境だ。


 ラピスは。


「……っ」


 四谷の悔しそうな顔だけど、張り合うのも疲れるだけだよね。


 さすがにちょっと出来過ぎな気もする。


 サイボーグじゃ在るまいな。


 アーイルビーバック。


「司馬。久遠。試合だ」


「はいな」


「へぇへ」


 僕らは立ち上がる。


 とは言ってもそんなに器用ではないので、ラピスレベルを期待されても困る。


 兄がダメダメで妹が完璧超人は良くあるネタだけど……彼女のバグり具合は、その先に在るモノに思えてならない。


「兄さん頑張れ! ファイト! ニャー!」


 ニャンニャンとはしゃぐラピスは愛らしく、元気を貰ったけど、


「ふっ」


 三点シュートは外れる。


 兄の方はこんなものです。

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