第19話 妹は噂の転校生06


「うげ」


 有家?


「?」


 放課後。


 昇降口でのこと。


 どこで漏れたか。誰ぞが知ったか。


 ラピスの下駄箱には付箋が貼りまくられていた。


 ラインのIDやら電話番号やら。


「スルーが吉だよ」


 安心させるように頭を撫でると、


「にゃごう」


 僕にすり寄ってくるラピス。


 赤眼が蠱惑に揺れる。


 正直言って心に刺さる。


 超可愛い。


 一応ルリズム原理主義過激派なので、ルリの延長線上であるラピスの可愛さは、教義に則るのだ。


 邪教かもしれない御本尊。


 ――お兄ちゃん失格でしょうか?


 さりとて他に行くところもなし。


 学校帰りに市立図書館へ。


 借りた本を返し、また別の作品を見繕う。


「なんでしたらネットで買いますよ」


 一兆円もあれば、そりゃね。


「スペース取るから遠慮します」


「隣の家を潰して書庫にすればいいじゃないですか」


 一兆円もあれば、そりゃね。


「良心の呵責に苛まれるので」


「遠慮せずに」


 妹であれば……なればこそね。


「国民データはどうしたの?」


「改竄しました」


「出来るの?」


「クラッキングは得意ですので」


「意外な」


「演算能力から逆算すれば然程でも無いのですけど」


 そう言えるのは特別な存在だ。


 バター味の飴をあげよう。


「兄さんは本が好きですよね」


「ルリも好きだよ」


「いやん」


 くねくね。


「だから大好きです! 兄さん!」


「へぇへ」


「本気ですってば~~~」


「僕もルリは大好きなんだけど」


「えへへぇ」


 芸術性のある尊貌が非芸術的なニヤニヤ笑顔。


 それがまたクリティカル。


 喀血するぞ~コノヤロウ。


 どこまで僕を萌えさせるつもりだ。


 その万能性と突出性に、妬き土下座をしてしまいたい気分にすらなる。


 ラピスの偶像は、それだけで周りの人間の……能力の乏しさを浮き彫りにする超常性が確かに存在していた。


「結局、何しに過去へ?」


「その……世界征服……」


 どこまで本気なのやら。


「兄さんは世界覇王になるべきです」


「期待してる」


「はいな!」


 可憐な薔薇の笑顔。


 ルリならチューリップの笑顔なんだけど、ラピスの可憐さは時にトゲを持つ。


「ところで今日の御飯は?」


「オムライス」


「結婚しましょう!」


「無理」


「何故……」


 むしろ何ゆえ呆然と為されるので?


「十八歳じゃないから」


「あ、そうでした」


「ラピスは僕と結婚したいの?」


「側室は許しますけど」


「ルリが正室」


「ですから私です」


「ラピスは側室」


「ロリ?」


「たまたまね」


「う~」


 在る意味コレって字面通りの「自分との戦い」ではないでしょうか?


 お兄さんは心配です。


「でもそうすると、つまりはルリのことが大好きだって事だよね。ちょっとノイズが入ってるけど」


「そうだね。僕の持つ愛情の最大級は、完全にルリの方に向いているよ」


「えへへ」


「ラピスは本読むの?」


「既に網羅してるので食指が動きません」


「網羅」


「ニーチェとか孟子とか超弦理論とか」


 う、わーお。


 どこまでハイスペック?


「必要ない知識ですけどね」


「…………」


 何故に上げて落とす?


「基本的にインタフェースの宿命ですから」


「インタフェース?」


「その内話します」


 ニコリと笑って、桜色の唇の人差し指を当ててウィンク。


 ぐ……可愛い。


 大人版ルリだから、当然でもある。


 それにしても業の深い。


 結局、何なんだろね?


 ラピスが……というよりラピスを急き立てている起因の僕が。


 一体何をやらかしたのか?

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