第4話 軽木の纏う諸事情03
黄時学院。
某県宵闇市にあるエスカレータ式の学院。
学校側の事情はともあれ、中々にモノの揃った施設が多く、おかげで学内での利便性は地方の他の教育機関と比べても比較に論じられない程度には便利。
学食だったり総合図書館だったり。
エスカレータ式なので、さほど進学に複雑な工程は発生せず……結果、僕は今春、晴れて高等部に。
妹のルリは初等部に所属。
大学院まであるので敷地はちょっとした物。
かなり広く、たしかに金は掛かっている。
「にしても今時学ランはねぇべ?」
学院高等部の制服は学ランだった。
四谷は女子なのでセーラー服。
黒と白。
昨日の葬式では四谷も久遠も制服で臨んでいた。
有り難いことだ。
在る意味で心配されているのだろう。
ちなみに僕は礼服のスーツだったけど。
ニュースとドラマの話をしながら学内へ。
昇降口で上履きに履き替えると、
「あーあ」
何時もの御様子。
四谷に幸福ありしを。
「まーた告られたんか?」
久遠は面白そうにケラケラ笑っていた。
他人事のつもりだろうけど久遠も異性に良くモテる。
正直なところ、どっちもどっち。
「本気でイミフ」
疲れた声だった。
「ま、頑張れ」
「応援してるぜ」
「距離取らないでし」
とはいえどうしろと?
「司馬」
「何でがしょ?」
「付き合って」
「缶ジュース一本」
「わぁったから。奢るから。まったく……友達甲斐がないというか……」
「毎度あり」
苦笑してしまう。
「うぃーっす」
教室に入ると、どこか空気が軋んでいた。
目の色でだいたい覚る。
同情。
不安。
懸念。
そう呼ばれる彩だ。
「さすがに引かれるよな」
久遠がケラケラ笑った。
「不謹慎だし」
四谷が彼を睨むけど、当の僕にしてみれば、むしろ同情よりも比較的心地よくはあったりして。
「はいはい。怒らないで。嬉しいけど」
ヒラッと手を振る。
「……むぅ」
呻いて席に着く四谷。
「じゃな」
久遠も席に着いた。
僕も習う。
ホームルーム。
担任の教諭が現われた。
目と鼻の先。
僕の席は最前列の中央……教卓前だ。
「お、司馬」
驚かせてしまったらしい。
「大丈夫か?」
「誰しもそう聞くんですね」
苦笑い。
他意は無いんだけど、それは相手方も同じはずだ。
教諭の立場で、生徒を慮るのは給料の一部でもありましょう。
「あー。すまん。そんなつもりじゃ」
「ええ。知っていますとも」
そんなわけでホームルームが始まって終わった。
一時限目は……数学。
寝よう。
そう心に決める。
「なぁ司馬」
わずかな時間に久遠が話しかけてくる。
「何か?」
「何かあったら言えよ?」
「済んだことは致し方なし」
「それで済まないから死を貴ぶんだろ?」
「否定はしないんだけどね」
今更だ。
「小椋佳の『逝くとき、祝うとき』が聞きたくなるかな?」
「お前らしいな」
「それより近くで小火が起きてるでしょ?」
「そっちはそっちで論じるべき事か?」
今更っちゃそうだけど。
「久遠も付き合う?」
「司馬に任せる」
損な立ち位置を確保するもので、と言いかけて止めた。
そこまで計算するのは人情を越える。
「風をいたみ、岩うつ波の、おのれのみ、砕けてものを、思ふころかな」
「何だソレ?」
「さてね」
知りたきゃどうぞお調べに。
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